懲戒処分をするために
会社は企業秩序に違反した労働者に対して、出勤停止や懲戒解雇などの懲戒処分を科すことができます。
しかし、法律違反をしていなかったら罰せられることがないのと同様に、就業規則に懲戒処分についての規定がなされていないと、懲戒処分を行うことはできません。
したがって、就業規則の作成義務のない10人未満の会社の場合も、懲戒処分を行う可能性があれば、就業規則を作成して懲戒に関する規定を定めておく必要があります。
懲戒処分の際に守るべきルール
- 懲戒処分を行うには、就業規則上の根拠が必要である。
- 懲戒手続きを欠いた懲戒処分は、懲戒権の濫用となり無効となる。
懲戒解雇の場合、普通解雇のチェック項目の外、次の点をチェックします。
これらの要件を欠いた懲戒処分は懲戒権の濫用として無効となります。
- 罪刑法定主義の原則 懲戒事由、懲戒内容を明示すること
- 平等待遇の原則 すべての労働者を平等に扱うこと
- 二重処罰の禁止 同じ事由で二重に処分することはできない
- 不遡及の原則 懲戒規定の制定以前の行為には適用できない
- 個人責任の原則 連座制は許されない
- 相当性の原則 処分の種類・程度には客観的妥当性が必要
- 適正手続きの原則 就業規則や労働協約などで定められた手続きが必要
懲戒の根拠があること(罪刑法定主義が準用されているか)
当然のことながら、懲戒に該当する事実がなければなりません。
また、懲戒の程度によっては、本人に十分な弁明の機会を与える必要があります。
さらに、懲戒処分を行うためには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則の懲戒規定(懲戒事由と懲戒手段)により定められていることが最低限必要です(労基法89条1項9号)。
また、その就業規則は周知されていなければなりません。
平等取扱いの原則
特別な理由もないのに、人によりあるいは会社内の地位によって処分の重さを変えたり、先例に反した仕方をしてはいけません。
規律違反の種類・程度その他の事情に照らして、他の同僚や過去の例と比べても平等な扱いであることが求められます。
同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度とされていることが必要です。
一事不再理(二重処罰の禁止)
日本には「一事不再理」の原則があります(憲法39条)。
同一の事犯に対して、二回懲戒処分を行うことは許されません。
一度判決が決まれば、その罪では二度と罰することができないという原則です。
会社内の懲戒についても同じように考えられています。
このため、同じ行為に対して、二重に処罰することはできません。
なお、二つの罪があるとすれば、二つの罰があるともいえます。
近鉄タクシー事件 大阪地裁 s38.2.22 ほか
ある事実に基づいて甲という懲戒処分がとられたのちに、その事実について再び乙という別の懲戒処分をとることは、一事不再理の原則に照らし許されないものと解すべきである。
ただし、ある事実について懲戒処分をとったところ、それから短期間の後に他の懲戒事由が発生したのでこれに対する処分を定める際に・・・、いわば情状として考慮することは許される。
平和自動車交通事件 東京地裁 h10.2.6
懲戒処分は、使用者が労働者のした企業秩序違反行為に対してする一種の制裁罰であるから、一事不再理の法理は就業規則の懲戒条項にも該当し、過去にある懲戒処分の対象となった行為について反省の態度が見受けられないことだけを理由として懲戒することもできない。
ただし、懲戒歴について、後日の他の懲戒処分に当たっての情状として、ある程度考慮することは認められると解されています。
甲山福祉センター事件 神戸地裁尼崎支部 s58.3.17
一事不再理は、過去に懲戒処分を受けたのと同一の行為につき、再度懲戒処分を科すことを禁ずるものであって、過去に懲戒処分を受けたことのある者が、新たに懲戒処分の対象となる非違行為を犯した場合に、過去にまったく懲戒処分を受けたことのない者に比して、重く処罰されることまでを禁ずる趣旨ではない。
不遡及
根拠規定が設けられる以前の事犯に対して適用されてはなりません(不遡及の原則)。
相当性の原則
処分理由となった服務規律違反行為は、そうした程度の処分をするに値するものでなければなりません。
懲戒処分には、軽い方からいって、
- 戒告・・・将来を戒めるのみで始末書の提出なし
- 譴責(けんせき)・・・始末書を提出させて将来を戒めること。譴責それ自体は具体的な不利益を受けないが、昇給・昇進・昇格や賞与において不利な査定を受けることが多い。
- 減給・・・労働者が受け取ることができる賃金から一定額を差し引くこと。1回の減給額は平均賃金の1日分の1/2以下。減給総額は一支払期の賃金の1/10以下。
- 出勤停止・停職・・・労働契約をそのままとして就労を禁止すること。出勤停止期間中は、当然に賃金を受けられない=労基法91条の減給規定は適用されない。(s23.7.3 基収第2177号)。出勤停止の期間について、とくに法律の規定はないが、賃金が支払われず生活が不安定となるため長期化は好ましくない。
- 降職・・・労働内容が変わらないのに、肩書きだけ降格させると、その降格自体が不当だとされます(倉田学園事件 高松地裁 h1.5.25)
- 諭旨退職・・・退職願や辞表の提出を勧告し、即時退職を求め、催告期間内に応じない場合は懲戒解雇に付するもの。
- 懲戒解雇・・・予告手当の支給は不要(労働基準監督署の認定があれば)。
といったものがあり、これに始末書提出が付いたり付かなかったりしますが、それほど重大でない違反行為に厳しい処分とすることは許されません。
はじめから「懲戒解雇」という結論を出すように決めてかかるのではなく、その違反行為について順次軽い処分を適用できないかということを考察してゆき、やっぱり懲戒解雇しかないというように判断していくのが原則です。
なお、ひとつの事例に対し、懲戒解雇とするには妥当性を欠くが、狭義の普通解雇としては有効であるとした裁判例も存在します。(大商学園事件 大阪地裁 h8.12.25、日経新聞社事件 東京地裁 s45.6.23)
適正手続の原則
処分手続は、適正かつ公平なものでなければなりません。
処分しようとする時は、理由をはっきりさせ、その証拠を明らかにするとか、処分に対する不服があれば、それを公正に検討するといった手続きや、特に重大な懲戒処分を科す場合には、本人に弁明の機会を与えることは最小限必要とされます。
こうした手続が就業規則や労働協約に定められているのに、それに違反した場合はもちろん、特に定めがなくても適正な手続を経ないでなされた処分は、権利の濫用等として無効とされることになります。
例えば懲戒処分にあたり就業規則や労働協約上、労働組合との協議や懲戒委員会の討議を経るべきことが定められているにも関わらず、それらの手続が適正に取られていない場合です。
大栄運輸事件 大阪地裁 s47.7.12
刃物をもって社長の腹部を刺し重症を負わせた従業員に対する懲戒解雇が、解雇協議約款の定めを守らなかったという手続き上の不手際で無効とされた。
しかし、いずれにせよ難しい案件なので、相反する判断が下されることが多いようです。
裁判の争いの中で新たな解雇理由を持ち出しても・・・
懲戒解雇の理由となる事実は、会社が懲戒解雇を通告した時点で知っていた事実に限られます。
ところが、多くの裁判例では、会社は、懲戒解雇のときに言わなかったことを、社員が争う姿勢を見せた途端に「あれもあった、実はこれも解雇の理由だ」と付け加えてきます。
中には、相当古い昔の事実で、当時何ら注意されなかった事柄まで持ち出されます。
しかし、そのことが「重大なことだ」と主張する一方で、その後に功績を認められて昇進・昇格していたり、表彰されていたりするのでは説得力はなく、会社側の訴えの根拠が疑われることになるといえます。
このような「苦し紛れのあら探しの末に探し出してきた解雇理由」では、裁判でも認められる可能性は少ないのです。
山口観光事件 最高裁 h8.9.26
懲戒解雇に関して、後から追加される解雇理由は、主張すること自体許されるものではない。
どういうとき懲戒権が行使されるか
職場の秩序違反行為は、大きく次の4区分に分類されます。
労務の提供に関すること
- 無断で職場を離脱すること
- 上司の業務上の指示命令に従わないこと
- 勤務態度が不良であること など
施設の管理に関すること
- 無許可で会社施設の利用
- 会社の施設・機械の破壊
- 所定の場所以外での喫煙、火気の使用 など
秩序維持に関すること
- 届出のない遅刻、欠勤
- 会社の秘密を他に漏らすこと
- 業務上の地位を利用しての個人的な利益の追求
- 会社の秩序、風紀を乱す行為
- 採用条件に関係のある事項(学歴・職歴・資格等)の詐称 など
会社外・就業時間外に関すること
- 会社の許可を得ることなく他に雇われたり、自ら事業を営むこと
- 会社を誹謗・中傷すること
- 会社の信用と名誉を傷つけること など
懲戒権行使の留意点
事実を確認する
懲戒処分を行うときは、まず事実を確かめることが必要です。
たとえば、会社に無断でアフターファイブに飲食店でアルバイトしている社員を処分するのであれば、具体的にどの店で何時から何時までアルバイトをしているのか確かめるべきです。
弁明の機会をあたえる
弁明の機会を与えることなく、会社の方で一方的に処分を決定すれば不公正だと批判されかねません。
「信義則」上は、処分の事由の告知と弁明の機会の提供が要請されることになるでしょう。
たとえば、会社の転勤命令に従わない者を処分するときは、「どうして転勤命令に応じられないのか」をよく聞く必要があります。
ただし、就業規則上、処分理由を告知すべき旨の定めがない場合には、「事実を告げなかったからといって、直ちに懲戒処分の手続に反し、無効であるということはできない」(総友会事件 東京高裁 h4.5.28)という判例もあります。
懲戒処分は公平でなければならない
同じ行為をし、しかもその程度がほぼ同じである場合には、懲戒処分も同じ内容にすることが適当です。
一人の社員には特に厳しい処分を行い、別の社員には甘い処分ですませるということがあっては不公平だといえます。
懲戒委員会への付議
懲戒処分の発動やその内容を懲戒委員会で決めることにしているときは、必ずその手続きを踏まなければいけません。
もっとも、懲戒委員会への付議が必要的なものでない場合は、懲戒委員会の議を経ずなされた懲戒も無効となるわけではないとされています。
エス・バイ・エル事件 東京地裁 h4.9.18
「懲戒委員会を設けることがある」旨の懲戒規定について、「懲戒規定の文言によれば委員会は必ず開かれなければならないものではなく、これまで開かれた例もないのであるから懲戒委員会が開かれなかったからといって本件処分が無効となるというようなものではない」
労働組合との協議
労働組合との協議約款がある場合でも、組合が協議に応じなかったり、組合側委員が懲戒委員会に出席しないような場合には、使用者側委員の決定となっても、手続違反とはなりません。
出向先は出向者の企業外での非行を懲戒できるか
労働者の企業外での非行によって、使用者の名誉、信用が害される場合には、懲戒を行うことができるとされています。
中国電力事件 最高裁 h4.3.3
労働者が就業時間外に職場外でしたビラ配布行為であっても、ビラの内容が企業の経営政策や業務等に関し事実に反する記載をし又は事実を誇張、わい曲して記載したものであり、その配布によって企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなどの場合には、使用者は、企業秩序の維持確保のために、右ビラの配布行為を理由として労働者に懲戒を科することが許されるものと解するのが相当である。


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