労働者代表と時間外労働命令の有効性
- 36協定の労働者代表選出手続きに不備がある場合、残業命令は有効なのでしょうか?
- 36協定締結の労働者代表が、「民主的な方法」によって選出されていなければ、36協定に基づく法定時間外労働命令は有効とはなりません。
- 残業を拒否する労働者を解雇したら
- 残業を拒否する労働者が労基署に駆け込んだら
- 事例詳細
残業を拒否する労働者を解雇したら
- 36協定締結の労働者代表が、「民主的な方法」によって選出されていなければ、36協定に基づく法定時間外労働命令は有効とはならない
- 有効ではない時間外労働命令に対する違反を理由とした解雇、あるいは懲戒解雇も無効となる
残業を拒否する労働者が労基署に駆け込んだら
- 労働者が、無効な36協定によって時間外労働をさせられたと労働基準監督署で説明すれば、労働基準監督官がに臨検にくる可能性が高い
- 36協定の労働者代表の選出手順等を説明ができなければ、行政指導の対象となりえる
事例詳細
この4月、晴れて北大塚商事に入社したA君は、同期入社のB君と話をしていました。
なあA君、この会社って結構ブラックじゃね? 確か人事の人は18時には仕事終わるといってたのに、いつも21時、22時が当たり前じゃん、朝早くこいともいわれるし。
そうだなぁ、でも入ったばかりだし、覚えることも多いからしょうがないんじゃない?
A君はのんきだな、俺は残業なんてやだね。大体18時で仕事は終わりなはずなのになんでいうことを聞かないといけないんだよ。俺だって早く帰りたい時だってあるんだよ!
と、B君は憤懣やるかたない様子です。その後しばらくしてA君は、B君が残業を拒否して早く帰りだしたとの噂を聞き、慌ててB君に聞いてみました。
おいB君、残業拒否して帰ってるって聞いたけど、そんなことして大丈夫なのかよ?
大丈夫だろきっと。こないだは部長と人事の人が、なんか36協定っていうの? 紙を持ってきて、これがあるから上司の命令に従いなさいって言ってきたけどさ、ワークライフバランスが重要なんだろ!
と、気にも留めてない様子です。そうこうしているうちに、今度は、B君がA君に電話をしてきました。
こないだ人事部に呼び出されて注意されたんだけどさ、こうなると俺も意地になって残業しなかったら今日また呼び出されて解雇といわれたよ! 頭来たから会社を訴える!
えぇ…お前がいうことを聞かなかったってのもあるし、裁判なんて難しいんじゃない? 一緒に謝ってもいいし。な、よく考えろよ。
いや、俺も調べたんだよ。前に見せてもらった36協定っていうのに、会社と親睦会の会長のハンコが押してあった。先輩に聞いてもなんで会長がハンコ押してるのか知らないっていうし、そんな36協定は無効なんだよ! だからそもそも命令される筋合いないんだから解雇なんてできないに決まっているだろ! ついでに労働基準監督署っていうところに違法なことをしているってチクってやる!!
と、まったく耳を貸しません。さて、B君が本当に訴える、あるいは労働基準監督署に行くとどうなるのでしょうか?
残業を拒否する労働者を解雇したら
結論からいうと、訴訟については36協定の締結対象者が、「民主的な方法」によって選出されていなければ、36協定に基づく時間外労働命令は有効とはなりません。
そして、有効ではない時間外労働命令に対する違反を理由とした解雇、あるいは懲戒解雇も無効となります。
したがって、B君がいうように、北大塚商事の36協定に押印した親睦会の会長が、36協定の締結対象者として北大塚商事の労働者の過半数の信任を、民主的な方法により得ていなければ(厳密には届け出た36協定を周知することも必要です)、北大塚商事は訴訟上不利になります。
そのため、いつどのような選出方法を実施したのか、どのような結果であったのかを北大塚商事が立証する必要があります。立証ができなければ、前述の通り、B君の解雇は無効になり、バックペイが生じる可能性があります。
残業を拒否する労働者が労基署に行ったら
次に、B君が労働基準監督署に行くとどうなるでしょうか。
通常、労働基準監督官は労働基準法等の違反について行政指導をすることになりますので、B君が無効な36協定によって時間外労働をさせられたと、労働基準監督署で説明すれば、労働基準監督官が北大塚商事に臨検(監督官が事業場を調査することを「臨検」といいます)にくる可能性が高いといえます。
そして、最近では、監督官が労働者代表の選出方法について事業主に説明を求めることもよくあることです。
北大塚商事の場合なら、なおさらでしょう。ここでもまた、北大塚商事は選出手順等を監督官に説明ができなければ、時間外労働をさせたこと自体で行政指導の対象となりえます。
以上の通り、労働者代表の選出は、業務との関連性が薄いので軽視されがちですが、非常に重要な手続きなのです。
勤務態度が不良な従業員に対する注意・指導の仕方を間違えると、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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