会社施設内での演説やビラ配布を処分できる?

会社施設内で署名活動を行う社員に対して、会社はどのように対応すればよいのでしょうか?
署名活動が、企業運営や企業秩序、他の従業員の休憩の自由利用等に与える影響を勘案して就業規則違反か否かを判断し、慎重に処分を検討しましょう。
このコンテンツの目次
  • 就業規則の規定
  • 処分の有効性
  • 事例詳細

就業規則の規定

  • 企業運営に支障があり企業秩序を乱す恐れがあるとして、休憩時間中のビラ配布等を会社の許可を必要と規定するのは、合理的な制約である

処分の有効性

  • 会社施設内での演説やビラ配布等が、他の従業員の自由に休憩する権利をも相当程度妨げ、本人に反省の意思がなかったことから、けん責処分が有効とされた例がある
  • 一方、会社内でのビラの配布が、工場内の秩序を乱す恐れのない特別の事情が認められるとして、就業規則違反になるとはいえないとする判例もある

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事例詳細

当社は、東京郊外で金属部品の製造・加工業を営んでいます。当社の従業員規模は約300名で、東京本社の隣には、工場を併設しています。

労使関係は比較的良好ですが、工場内に1名、A社員という協調性に欠いた行動をとる者がおり、何度か注意しても改まらなかったことから、けん責処分を発令したところ、A社員は外部のユニオンに加入してしまいました。

ユニオンからは、懲戒処分の取り消し等を求めて、何度か団体交渉の申し入れがなされましたが、当社はその都度、誠実に対応しております。

A社員は、これまでも組合員拡大のために、勤務時間外ではありますが、工場の内外でビラ配りをしていたことが何度かあり、先日も次のようなことがありました。

当社の工場では、お昼休憩を全員一斉に取り、多くの従業員が、工場内の食堂や休憩室を利用しています。

休憩室では、囲碁や将棋に興じたり、テレビを見たり、各々休憩時間を自由に利用しているのですが、とある日の休憩時間中に、当該A社員が他の従業員に、何やら声を掛けている姿を、総務課長が目にしました。

A社員

ねぇねぇBさん、ちょっとお願いなんだけどさー、署名に協力して欲しいんだどなー。

B社員

えっ、一体なんの署名ですか? ・・・衆参両院議長宛「労働基準法の最低基準の大幅引き上げを求める嘆願書」って。これは一体なんですか?

A社員

現在のように変化の激しい時代において、我々労働者が安心して働ける職場を作るには、労働法の改正が絶対に欠かせないものであって、そのためには我々労働者が、云々・・・。

B社員

私は、今の会社に特に不満もなく、安心して働いているのですが。・・・そうはいっていられないということなんですかね?

A社員

そ、そ、そういうことです。とくに昨今の日本の景気からすれば、今後はますます、云々・・・。

B社員

でも・・・、やっぱり私は特に・・・。あまり興味もないし・・・。っていうか、よく分からないし・・・。

A社員

大丈夫です。Bさんには、絶対に迷惑を掛けたりしませんから。僕に任せてください。

B社員

・・・そうなんですか。・・・じゃぁ、分かりました。えーと、ここに名前を書けばいいのね。

B社員がA社員の説得に負けて署名をすると、立て続けにA社員は、別の社員に声を掛け始めました。

こうしたA社員の様子を見かねた総務課長は、ついにA社員に声を掛けました。

総務課長

Aさん。さっきからいろんな人に声を掛けて署名を集めているようだが、一体なんの署名なんだい? 文書の配布とか署名をする場合は、会社の構内である以上、会社の許可が必要です。君は就業規則も見たことがないのか? その署名したものは、私が預っておくから、よこしなさい。

A社員

就業規則に書いてあるかどうかは知りませんが、今は昼休みだから何も会社に迷惑は掛けていません。

総務課長は、この事態を直ちに総務部長に報告したところ、翌日A社員を呼んで、3人で面談することになりました。

総務課長

昨日、実際に署名した従業員に私から話を聞きましたが、Aさんが先輩だから、断ることもできずに署名したっていってましたよ。

A社員

休憩時間中ですし、会社にも誰にも迷惑を掛けているわけではありません。署名してくれた人も、みんな嫌な顔せずに協力してくれました。

総務部長

Aさんも、当社の従業員なのですから、就業規則を遵守してもらわないと困ります。今後は、こうした活動はやめるようお願いします。

A社員

いいえ、やめるつもりはありません。誰に何をいわれようとも、今後もやります。

総務部長

いいですか。Aさんが行っていた、嘆願書に署名を求める行為は、就業規則で禁止されている会社施設内での政治的活動です。たとえ組合活動であっても会社の許可なくしてはできません。昼休みだからといって自由にできるというのは、Aさんの勝手な主観によるものです。

A社員

いいえ、そんなことはありません! 昼休みの時間なので、会社に届け出る必要もないと思います。

総務課長

・・・もう一度いいます。Aさんが、今後も態度を改めないのなら、会社としては厳正な措置を取らざるを得ません。今後は就業規則違反行為をしないと誓ってくれませんか。

A社員

いやです。私は悪くないんですから、断固拒否します。そんなことは絶対に誓えません。

休憩時間

総務部長らは、この事情聴取を踏まえ、さらに署名活動の内容、他の従業員に与えた効果や、過去のA社員の処分歴等を検討して、けん責処分とすることを決定し、翌日A社員にけん責処分を発令しました。

その後、A社員は、けん責処分の無効を訴え裁判を起こしました。

こうした事案について裁判例では、以下のように判示しています。

会社施設内において演説やビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、社内の施設管理を妨げる恐れがあり、さらに他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、その後の作業能率を低下させ、その内容いかんによっては、企業の運営に支障をきたし、企業秩序を乱す恐れがあるとして、休憩時間中のビラ配布等につき、会社の許可を必要とするのは、合理的な制約である。

本件についても同様で、けん責処分は有効と判断されました。

A社員の行為が、会社施設内であったことはもとより、その署名の趣旨説明や説得を行っていたことから、会社の施設管理権や秩序維持権を侵害した上、他の従業員の自由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認し、加えてA社員には反省の意思がなかったことから、当該処分を有効。

しかしながら一方で、ビラの配布が就業規則違反ではないと判断された事例もあります。

ビラの配布が、食事中の従業員に手渡した他、食卓上に置くという平穏な方法で行われ、そのビラを受け取るかどうか、閲読するか廃棄するかも各従業員に任され、配布時間も数分間であったというような態様の場合には、工場内の秩序を乱す恐れのない特別の事情が認められるとして、就業規則違反になるとはいえない。

解雇はもちろんのこと、いきなり懲戒処分を行うのではなく、慎重に検討する姿勢が必要です。

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