非常の場合の賃金支払いとは?
非常の場合の賃金支払いとは?
労働者は、私的な理由で生活費が足りなくなった場合、給与支給日の前に、既に働いた分の賃金を請求することができるのでしょうか?
→ 単に娯楽にお金を費やしてしまったときは「非常の場合」には該当しないので、会社は従業員の請求に応じる義務はありません。
目 次
- 労基法第25条の「非常の場合」とは
- 賞与の取り扱い
労基法第25条の「非常の場合」とは
厚生労働省令では、以下の3つが挙げられている。
- 労働者の収入によって生計を維持する者の出産、疾病、災害
- 労働者またはその収入によって生計を維持する者の結婚、死亡
- 労働者またはその収入によって生計を維持する者が、やむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合
賞与の取り扱い
そもそも支給するか否かさえも明確でない場合は、任意的・恩恵的給付であって、労働の対償たる賃金には該当しない。
事例詳細
当社の入社3年目の営業社員のAさんは、パチンコが趣味で、週末になると、近所のパチンコ店に出向いているようです。最近では、同じくパチンコ好きの後輩のBさんと一緒に行くこともあるようです。
「Aさん、最近のパチンコの調子はどうなんですか?順調に勝ってますか?」
「最近は負けが続いてて、あんまりよくないねぇ~。Bさんはどうなの?」
「僕はぼちぼちってところですね。Aさんはどのくらい負けてるんですか?」
「先月の給料日からまだ10日しか経っていないのに、ほとんど使っちゃったよ。」
「えっ!!!次の給料日まで、まだ結構日にちがあるのに大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。来週隣町のC店が新装開店するから、そこで一気に取り返すさ。」
こうして翌週、Aさんは、C店で開店からパチンコを打ち始めました。最初は好調だったのですが、だんだんと当たりが出なくなり、結果は惨敗で、今月の給料もほぼ底をついてしまいました。
「Aさん、昨日はC店に行ったんですか?負けの分、一気に挽回できましたか?」
「それがさぁ。最初は調子よかったんだけど、どんどん吸い込まれていって、結局ダメ。次の給料日までどうしようか・・・。」
「ネット見てたら、労働基準法には『労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。』って規定しているみたいですよ。」
「へぇ~。俺の場合、出産、疾病、災害ではないけど、非常の場合だから、会社に請求してみるかぁ。」
パチンコで負けたら「非常の場合」?
確かに、労働基準法第25条には、「非常時払い」という条文が規定されています。「非常の場合」とは、上記の他、厚生労働省令では、次の3つが挙げられています。
- 労働者の収入によって生計を維持する者の出産、疾病、災害
- 労働者またはその収入によって生計を維持する者の結婚、死亡
- 労働者またはその収入によって生計を維持する者が、やむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合
よって、今回のようなAさんの事情では、当然ですが法律で保護される「非常の場合」には該当せず、会社はこれに応じる義務はありません。一方、「非常の場合」に該当する事由により、労働者から請求があれば、会社は「既往の労働に対する賃金」を支払わなくてはなりません。
賞与は「既往の労働に対する賃金」に該当する?
では、賞与についてはどうでしょうか。賞与については、そもそも支給するか否かさえも明確でない場合は、任意的・恩恵的給付であって、労働の対償たる賃金には該当しません。
しかし通常の場合、支給額は確定していないものの、業績の著しい低下等の一定の留保を付けつつも、業績に応じて支給することとし、支給額は、その都度決定する旨を定めていることが多く、この場合には賃金に該当します。
賃金に該当すれば、非常時払いの適用を受けることになりますが、賞与とは通常、算定対象期間が設定されており、その期間における人事考課等によって支給額が決定されるものですから、支給額が確定していない段階では、どの部分が「既往の労働」に対応するのかが判明しません。
よって、支給額が確定していない以上、月例賃金のように、本来の支払日に請求できるものとはいえませんので、非常時払いの請求があっても、これに応じる義務はありません。
しかし、例えば、賞与は基本給の2ヶ月分を支給するといった規定がある場合は、賞与額が確定していますから、非常時払いの請求には応じる必要があります。
なお、退職金については、賃金の後払い的な性格も有しているという点からすると、「既往の労働」に対する賃金といえるのかもしれません。しかし、退職金の場合は、実際に退職し、退職金支給日が到来して初めて退職金請求権が発生し、それ以前は単なる期待権に過ぎないと解されるので、非常時払いの請求には応じる義務はありません。
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