競業会社に就職した退職者に退職金は必要?

同業他社に転職した退職者に、退職金を支払わないことは許されるのでしょうか?
事案にもよりますが、下記のケースでは「永年の功を抹殺するほどの背信行為」がなければ、退職金の不支給は認められないでしょう。
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このコンテンツの目次
  • 社員への競業避止
  • 競業制限と従業員の範囲
  • 具体的な対策
  • 事例詳細

社員への競業避止

  • 原則、就業規則や労働契約等で競業を制限する旨の定めがあることが必要
  • その上で、社員と書面を交わし、競業避止について合意する

競業制限と従業員の範囲

  • 競業禁止の期間と場所を限定しており、かつ、相当の代償措置を講じていたことが必要
  • 例えば、会社が開発した独自の技術やノウハウなどの保護に値する企業秘密に直接関わった者に限定される

具体的な対策

  • 退職金規程に、「退職後に競業避止義務違反が判明した場合には、退職金を支給しない」旨を定めておく

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事例詳細

先日、ある会社の社長がご相談にいらっしゃいました。

社長

当社のベテラン営業マンが同業他社に転職した。同じ都内で競業会社にもかかわらず、俺に何の相談もしないで。こんな奴には退職金を払いたくないが、大丈夫だろうか?

お気持ちは痛いほどわかりますが、そう簡単な問題ではありません。

競業会社への転職禁止にも合意が必要

まず、労働契約上、退職後の競業を禁止する旨の合意(競業避止の特約)があったか否かが問題となります。

競業避止特約とは、従業員に対し、退職後の同業他社への転職や、自ら競業会社の設立を行わない旨を契約することをいいます。

競合会社

これがあったというためには、書面等で、合意をしていたことが証明できるようにしておく必要があります。

そのために、原則としては、就業規則や労働契約等で競業を制限する旨の定めがあることが必要となります。

ただし、競業避止特約を定めている場合でも、無制限に競業を禁止できるわけではありません。

競業避止特約は、憲法で保障された労働者の職業選択の自由を制限するものであるため、もしも争いになって裁判になると、「職業の制限が合理的範囲を超え、労働者の職業選択の自由等を不当に拘束し、労働者の生存を脅かす場合には、公序良俗に反し無効」などと言われてしまう確率が高いのです。

競業を制限できる合理的範囲については、「制限の期間(現在は6ヶ月間くらい)、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償措置の有無等について、会社の利益(企業秘密の保護等)、労働者の不利益(転職の不自由等)及び社会的利害の3つの視点に立って、慎重に検討することを要する」などといわれ、会社には厳しい態度がとられがちです。

したがって、競業避止義務を課すためには、会社は少なくとも、競業禁止の期間と場所を限定しており、かつ、相当の代償措置(特別な手当を支払っていた)を講じていたことが必要とされます。

また、競業避止義務を課すことができる従業員の範囲についても、無制限というわけではありません。

「労働者に退職後まで競業避止義務を課さなければ、会社の保護されるべき正当な利益が侵害されることになる場合において、必要かつ相当な限度で競業避止義務を課するものであるときに限り、その合理性を肯定することができる」と、相当に制限を加えて、労働者の職業選択の自由や転職の自由をプロテクトする姿勢を見せています。

そうすると、どの従業員でも競業避止義務が課せるというわけでもなく、例えば、会社が開発した独自の技術やノウハウなどの保護に値する企業秘密に直接関わった者に限定されると理解した方がよさそうです。

このように見てくると退職後に、普通の元従業員に同業他社等で仕事をすることを制限したり、競業会社を設立することを制限もしくは禁止したりすることは、なかなか容易なことではなさそうです。

どのような対策があるのか?

退職金不支給

しかし、会社としても指をくわえてみているだけというわけにもいかないでしょう。

実際に会社の財産である重要顧客に、元担当者である営業マンが同業他社に入社後出入りして顧客を収奪するような行為をした場合、会社としては対抗措置を取らざるを得ません。

このあたりは弁護士の先生にお願いしてしかるべき対応を取ることになります。

最後に、この社長のご相談のケースで競業避止義務違反を理由として退職金の不支給を行う場合には、「永年の功を抹殺するほどの背信行為があったこと」を要します。

そして、その前提条件として、退職金規程に、「退職後に競業避止義務違反が判明した場合には、退職金を支給しない」旨、定められていなければならないことにも注意することが必要です。

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