懲戒処分には弁明の機会が必要?

当社は、今年で創業40年になる建設機械メーカーです。東京本社の他に、大阪支店があり、従業員数は全体で30名ほどになります。

この度、当社大阪支店のA社員が、現金を着服しているのではないかとの疑いが発生し、ただいま調査を進めているところです。

A社員は、10年前に当社大阪支店に総務担当事務員として採用され、それ以降、金銭出納や切手、印紙等の購入、郵便物等の送付等の事務作業を一人で担当してきました。

タクシー

先般、帳簿の精査をしておりましたところ、約5年前から大阪支店における通信費用が、本社に比べて異常に高いことが発覚したため、先月の10日から切手の使用状況について発信簿を作成して、発送先や内容、及びその料金を記載させて管理させるようにしたところ、切手の使用額が急激に低額化したのです。

もともと大阪支店では、切手をB社のみから購入していたのですが、B社では領収書を発行することはしておらず、いずれの購入者においても、自ら切手の種別等を記載して持参した伝票用紙(金額欄に金額は記載されていない)に、領収印を押印することで領収書の発行に代えていたという経緯があり、A社員も金額欄についてはB社の領収印の押印後に記載していたようです。

「社長、先般帳簿の精査をしていたところ、大阪支店の通信費の額が異常に高いことが発覚しました。」

「何だって、総務部長。大阪支店の通信費の額が高いというのは、原因は何かね?」

「それがまだよく分からないのですが、実は大阪支店のA社員が、着服しているのではないかという疑いがありまして・・・。」

「何!?もしそうだとすれば、懲戒解雇にも相当する重大なことじゃないか!すぐにA社員に事情説明を求めて、事実の解明に当たってくれ!」

「分かりました。ただ、A社員は現在休暇中で海外に旅行に行っているようで、週明けにならないと出社して来ません。」

「そうか。それでは、事情聴取等の方法は総務部長に任せるから、しっかりと頼むぞ。」

「分かりました、社長。A社員が出社してきたら、さっそくヒアリングを実施します。」

こうして週明けに総務部長は、A社員に説明を求めることになりました。

先の経緯から、間違いなくA社員が着服していると確信した総務部長は、発信簿をつけ始めた月の切手使用実績と過去の切手購入額を記載した一覧表を作成し、その差額の説明を求めることにしました。

総務部長に促され、A社員は、支店近くの小さな喫茶店で事情聴取を受けることになりました。

「Aさん、この書類を見てくれ。発信簿をつけ始めた月とそれ以前の月とで、大幅に切手の使用実績が減少しているんだが、これについて説明してくれないか?」

海外旅行直後で睡眠不足状態でもあったAさんは、突然の事態に呆気に取られ、答えに窮しました。これを見て、総務部長が切り出しました。

「これが公表されると、家族や周囲の者に迷惑をかけることになるし、再就職にも影響が出るだろう。会社は穏便に済まそうと思っているのだが。Aさん、やりましたね。」

A社員は、突然のことで気が動転し、且つ他の顧客が聞いている様子も気になり、呆然自失の状態で発言しました。

「あっ、あっ、あっ・・・はい。・・・も、も、申し訳ありませんでした。すみませんでした。」

そして同日夕方に、総務部長の要求に従い、A社員は始末書を提出するに至ったのですが、その翌日、前日の発言を取り消す旨を申入れてきました。

そのため当社は、A社員に情状酌量の余地無しと判断し、就業規則に基づき、A社員を懲戒解雇としました。

すると数日後、Aさんより、「会社の主張する着服行為をしたことはなく、会社は不正の内容を告げることなく弁明を求め、且つ、横領を認めるよう強要して始末書を書かせたのであって、適正手続きも履践されていないから、懲戒解雇は無効である。」との訴えがなされました。

弁明の機会

さて、使用者がこうした懲戒権を行使するにあたっては、適正な手続きが要求されます。特に、就業規則等で本人に対する弁明の機会の付与といった手続に関する規定が定められている場合には、この手続きを遵守しなければならず、この手続きに瑕疵があれば、懲戒は無効となります。

一方、このような手続きが、就業規則等に定められていない場合であれば、弁明の機会の付与等を行う必要はないのかという点が問題となります。

先の事例では、手続きに関する規定が就業規則等に定められていなかったのですが、弁明の機会の付与について裁判所は、「弁明の機会を与えるとは、懲戒解雇の事由に関する事項に関し、疑問点等につき釈明させるものであるから、釈明可能な事項につき、釈明のための必要な資料や疑問の根拠を説明し、必要あるときはその資料を開示し、あるいは釈明のための調査する時間も与える他、解雇事由が職務に関する不正、特に犯罪事実にかかるときは、その嫌疑をかけられているというだけで、心理的に動揺し、また解雇の恐れを感じることから、心理的圧迫を与える場所や言動をしない配慮が必要である」とし、総務部長がAさんに与えた弁明の機会は、その時期、場所、方法等につき、配慮を欠くものであり、不適切であるとしました。

さらに、Aさんが現金を着服したということについて、これまでの会社の管理状況が極めて杜撰であったということや、証拠が不十分であったということもあり、結果として当該懲戒解雇は無効と判断されることになりました。

こうして見ますと、手続きに関する規定が無い場合における懲戒処分の有効要件として、弁明の機会の付与が必要不可欠とまでは言い切れないものの、少なくとも弁明の機会を付与しなかった場合には、懲戒権の行使に関し、マイナスの影響を及ぼしうる可能性があると考えておくべきでしょう。

したがって実務的には、懲戒処分の程度や事実認定の難易度を勘案しつつ、特に懲戒解雇のような重い処分を予定している場合や、処分対象者が事実関係に異議を唱えているような場合等には、弁明の機会を与えた方が無難であると言えます。


懲戒処分のトラブル

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