懲戒した後に別の懲戒事由を後から追加できるか?

当社は、健康ランドやサウナといった、いわゆる公衆浴場の経営を主としております。当社では、心身ともにリラックスして頂けるよう、マッサージのサービスも行っており、大変好評を頂いております。

そんな折、マッサージ業務に従事していた従業員が退職することになったため、マッサージ業務の経験者という45歳の女性(Aさん)を採用することにしました。

マッサージ業務は、相当程度の体力が必要ですが、Aさんは過去に経験もありますし、45歳といってもまだ若いですから、当社としては期待をしていました。

しかし、採用から3ヶ月が経過したころから、Aさんに疲労が蓄積し始めたようで、とある出勤日の朝に総務部長宛に電話がありました。

「すいません、総務部長。体調が思わしくないので、本日はお休みさせて頂きたいのですが。」

「大丈夫ですか?では、今日は無理せず休んで下さい。ただし、欠勤になりますから、賃金は発生しませんので、その点はご了承下さい。」

「・・・すみません、ありがとうございます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」

この日、Aさんは欠勤することになりましたが、ここから約1年の間にAさんは、疲労を原因とした欠勤が16日、それ以外にも歯の治療として約1ヶ月の欠勤をしました。

その後数ヶ月間は、通常通り勤務していたAさんですが、またしても疲労が蓄積してきたようで、休日のため家で休養していたAさんは、有給休暇を取得しようと、総務部長に連絡することにしました。

しかし、これまでも幾度と無く欠勤していたAさんは、自ら電話をすることをためらい、夫に会社に電話してもらうことにしました。

「いつもお世話になります。Aの夫で○○と申しますが、総務部長はいらっしゃいますか?」

「こちらこそ、いつもお世話になっております。総務部長は私ですが、どうなさいました。」

「実は、妻が連日のマッサージ勤務により、疲労困憊したようなので、翌日から2日間休暇を頂きたいのですが・・・。」

「そうですか・・・、旦那さん、たいへん申し訳ありませんが、少しお待ち頂けますか?」

総務部長は、電話を保留にして、社長に伝えました。

「社長、Aさんの旦那さんから、今、電話がかかってきているんですけど、どうします?」

「あぁ、そうか。んーーー、では総務部長、私が電話を代わろう。電話を私につないでくれ。」

社長は、代わって電話に出ることにしました。

「もしもし、当社の代表を務めております、○○と申します。Aさんの体調が宜しくないのですか?」

「申し訳ございません。実は妻が、連日のマッサージ勤務により、疲労困憊したようなので、翌日から2日間休暇を頂きたいのですが・・・。」

「そうですか。・・・旦那さん、今、Aさんはお電話に出ることはできますか?」

「えぇ、そ、そ、それでは今、妻に代わりますので。・・・少々お待ちください。」

「あぁ、Aさんですか。あなたはこれまでも疲労が蓄積したといって、再三欠勤してこられましたよね。」

「あっ、社長。おはようございます。朝早くから、たいへん申し訳ございません。」

「申し訳ないではないですよ。こっちはローテーションを組んでやってるんですよ!これでは、仕事になりません。それに、自分が休もうとしているのに、ご主人に電話をかけさせるなんておかしくないですか?正直、あなたみたいな方は、もう必要ありませんから、辞めて頂きたい。明日から来なくて結構、懲戒解雇です!」

社長は、Aさんが自分で電話をかけてこないという態度や、休暇を請求したこと自体に腹を立て、勢い余って懲戒解雇の通知をしてしまいました。

その数ヶ月後、Aさんから、懲戒解雇無効を求める訴訟が提起されました。

「しゃ、しゃ、社長、大変です。あのAさんが、今頃になって、うちを訴えてきましたよ!」

「な、な、なんだって!?・・・それで、Aさんは訴状でいったい何だと言っているんだ?」

「そうですね。度々欠勤したのも、会社の許可を取っているし、有給休暇も労働者の権利であり、それを理由とする懲戒解雇は無効だという内容ですね。確かに懲戒解雇事由としては、少し弱いような気がします・・・。」

「ふーーーむ、そうか。それで、Aさんの懲戒解雇を正当化できる根拠は他にはないのか?」

「・・・んーーー、そうですねぇーーー、何はともあれ、これから色々調査してみます。」

その後、総務部長が調査したところ、何とAさんが応募時に提出した履歴書に、年齢について虚偽の記載があることが判明しました。

採用されたときは、45歳との申告だったのですが、実は12歳もサバを読んでおり、実際には当時57歳だったのです。

「これは重大な虚偽申告じゃないか!年齢詐称は懲戒解雇事由に該当するから、これを追加したらいいじゃないか。」

「そうですね、社長。良かったです。これなら、なんとか懲戒解雇は有効になるかも知れませんね。」

さて、労働者を懲戒解雇した後、別の懲戒解雇事由が新たに判明した場合、後から判明した事実を追加することはできるのでしょうか?

これについて最高裁は、次のように判示しています。

「使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該解雇の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。

マッサージベッド

本件懲戒解雇は、被上告人が休暇を請求したことや、その際の応接態度等を理由としてされたものであって、本件懲戒解雇当時、上告人において、被上告人の年齢詐称の事実を認識していなかったというのであるから、右年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできない。」(山口観光事件 最高小一判 H8.9.26)

このように、懲戒処分後に判明した事実を処分理由に後付けで追加することについては、最高裁が明確に否定していますから、仮に懲戒処分をする場合であっても、そのときに認識していた事実のみをもって行わなければ無効となることに注意する必要があります。


懲戒処分のトラブル

サブコンテンツ

このページの先頭へ