始末書の不提出を理由に懲戒できるか?

当社は、タクシー事業を営む株式会社です。先日、当社のタクシーに乗車頂いたお客様から匿名で、当社のお客様コールセンター宛に、一件の苦情がありました。

苦情内容は、当社のA乗務員が運転するタクシーが、お客様の指示した経路で走行しなかったために、到着が遅れたことと、それによって運賃が高くついたというものでした。

この報告を受けた当社の専務は、A乗務員を呼び出し事情を聴取することにしました。

「この前Aさんのタクシーに乗車したお客様から、匿名で苦情が寄せられたんですが・・・。」

「えっ!!そうなんですか?・・・それで、苦情ってのはどんな内容でしょう?」

「お客様の指示する経路で走行せず、到着が遅れて、おまけに運賃が高くついたってことなんですが、記憶にないですか?」

「さぁ~、記憶にないですねぇーーー。本当にそれは私の乗せた客なんですかねぇ。」

「具体的に、○月○日の△時頃ということまで、お客様は言っているんです。記憶にないってことはないでしょう?」

「○月○日の△時頃ですかーーー?その日は確か、道路が渋滞していたんじゃないかなー、それで遅れたということはあるかも知れないなーーー。」

「そうですか。それではお客様からの苦情は事実ということなんですね。」

「いやいや、渋滞はあったような気がするけど、客の指示した経路で走行しなかったというのはちょっと記憶にありませんねぇ。」

「そうですか。でもAさんは、前にも、同じような苦情を受けたことがありますよね?」

「過去にはありましたが、だからと言って今回の苦情とは関係ないと思いますよ。なんなら、事実確認のためにコールセンターに一緒に行ってもらっても構いませんよ!」

「その必要はありません。とりあえず、Aさんが今回の件について反省する気があるのであれば、今週末までに始末書を提出して下さい。」

「何じゃそりゃーーー!?事実も明確じゃねぇーのに、始末書なんて提出できねぇよ。」

「そうですか。どうしても始末書を提出しないというのであれば、会社としては懲戒処分するしかありません。」

「ふざけんなよ!?言いがかりで始末書だの言われて、出さなきゃ今度は懲戒なんて、そんなのある訳ねぇーだろうよ。」

さて、「始末書」の提出を求めた場合、本人が任意に提出すれば問題はないのですが、本人が提出しない場合その提出拒否に対して懲戒処分をすることはできるのでしょうか?

これについては、最高裁の判例がある訳ではありませんが、多くの裁判例によれば、懲戒処分をすることはできないという考え方が有力であるとされています。

しかし、会社が提出を求めている「始末書」が、一体どのようなものを指しているのかによっても、状況は変わってきます。

「始末書」については、法律上の定義は存在しませんが、一般的には、

  1. 従業員が事故や不祥事等を起こしたときに、当該事故や不祥事等に関する事実関係や背景事情等を報告させ、それを確認するとともに
  2. 当該事故や不祥事等に関する謝罪、反省や、将来同様の行為を繰り返さない旨の誓約をさせる書面

と考えられることが多いと思います。

一方、こうした主旨とは異なり、当該事故や不祥事等に関する事実関係や背景事情等を報告させ、それを確認することのみを目的とした書面を指す場合もありますが、この場合は、「始末書」と区分して、「顛末書」という呼び方をされることが一般的です。

実際には、この点の区分が曖昧になっていることが多いと思いますが、当該事故や不祥事等に関する謝罪、反省や、将来同様の行為を繰り返さない旨の誓約等が含まれた「始末書」の提出を求めた場合、これは労働者の思想・良心の自由(憲法19条)に関わる問題であると考えられるため、既に述べた通り、その不提出を理由とする懲戒処分は無効となるリスクが高いと言えるでしょう。

では、会社が「始末書」の提出を求めたにもかかわらず、従業員がそれを拒否した場合、どのように対応すべきなのでしょうか?

この点、実務的には、「始末書」の提出に固執するべきではなく、会社は、後日の紛争に備えて、まずは「始末書」が提出されなかった事実を記録として残しておくべきです。

タクシー

これにより、「始末書」を提出しなかったという記録が残ることになり、事案に応じて、本人が反省をしていなかったという、一つの情状として考慮することができる場合があるからです。

その上で、会社としては、事実関係や背景事情等のみを報告する主旨の「顛末書」の提出を求めます。

これは業務命令によって行っても問題ありませんから、「顛末書」の提出を求めたにもかかわらず、本人が拒否した場合には、懲戒処分も可能であると考えられます。

なお、「顛末書」を提出させる場合は、

  1. Who(だれが)
  2. When(いつ)
  3. Where(どこで)
  4. Why(なぜ)
  5. What(何を)
  6. How(どうやって)

という、いわゆる「5W1H」を明確にさせることが重要ですから、従業員にはその旨を指示して、「顛末書」を記載させるようにします。

にもかかわらず、「顛末書」の内容が不十分であるような場合には、その点を明確に指摘した上、「顛末書」を返却し、書き直しを命じることになります。

その際、単に返却するのではなく、必ずコピーを取った上で返却することが重要です。

また、書き直しを命じる場合には、会社が「…と書くように。」という具体的な指示をすべきではなく、せいぜい、5W1Hの項目を明確にするように命じるか、明らかに真実に反する点があれば、それを指摘する程度に留めておくべきです。

そして、再度書き直しを命じたにもかかわらず、相変わらず内容が不十分であるような場合には、何度書き直しを命じられても同様の「顛末書」を書いてくる可能性が高いため、会社としては、仮に記載が不十分なものであっても、これは受け取るべきであって、再度の書き直しを命じるべきではありません。

むしろこれにより、従業員が二度にわたって虚偽の内容を記載して提出したという証拠を確保できたわけですから、これを最大限活用するため、会社としては事実の調査に注力すべきと考えます。


懲戒処分のトラブル

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