経歴や犯罪歴の詐称で懲戒解雇できるか?

当社では、ここ数年、経営状況が悪化していることから、業績回復のために、新規顧客の開拓や新製品の開発等を強化すべく、この度、中途で人材を採用することにしました。

応募してきたAさんは、55歳です。履歴書には、以前は経営コンサルタントをしていたこと、また、約4年間に亘り渡米し、かつての部下が経営する会社の立て直しにも携わる等の経歴が記載されており、こうした経験を活かして、当社の経営改革の一翼を担ってくれるだろうと期待し、採用することになりました。

「なぁ、専務。先月採用したAさんは、当社の経営改革には、ぴったりの人材だろう。」

「そうだといいのですが・・・。先日、社長が不在の時に会議をしていたんですが、そのときのAさんの発言内容が、よく分からないんですよね。」

「それはさぁー、ひょっとしたら、逆に、君の知識の方が不足しているからなんじゃないのかね?」

「それもあるかも知れませんが、他の人も同じように感じていたみたいで、B部長が、質問してみたんですけど、Aさんは、『こんなことも分からないのか!』と語気を荒げるんですよ。」

「まぁーーー、それはさぁー、専門家からすればそう言いたくもなるのかもしれないなーーー。」

「私の直観なんですが、ひょっとして、経営コンサルタントの経験自体、ないのではないかと疑問に思いまして・・・。」

「そんなことないだろーーー!そんなに言うなら、君の方でAさんについて調べてみたらどうかね?」

「そうですね。もし、調べてみて何もなければ、それはそれでいいですもんね。さっそく調べてみます。」

Aさんの経歴に疑問を抱いた専務は、Aさんについて調査することにしました。調べていくと、インターネット上に、次のような記事を発見しました。

「平成20年2月6日、食品菓子販売大手のC社の役員を中傷するFAXを流したとして、警視庁●●署は、信用棄損容疑で東京都●●区●●、自称経営コンサルタントAを逮捕した。」

「しゃ、しゃ、社長!インターネットでAさんを調べていたら、こんな記事を見つけました!」

「こ、こ、これは、本当にAさんなのか・・・!。間違いないのかね・・・?」

「はい、社長。恐らくAさん本人に間違いありません。すぐにAさんに確認してみます。」

こうして専務はAさんを呼び出し、事実確認を行ったところ、Aさんは、事実であることを認めました。そして、懲役2年6ヶ月の実刑判決を受けて服役していたことも判明しました。

「社長、どうしますか?これは重大な経歴詐称ですよ。履歴書にも『賞罰なし』って書いてありますし、これは懲戒解雇するしかありません。」

「ふーーーむ、そうかーーー。すっかり騙されたな・・・。よしっ、仕方ない、懲戒解雇だな。」

この事案について裁判所は、「原告(Aさん)は、雇用契約締結に際し、本件服役等について被告(会社)に秘し、アメリカにおいて4年間に亘り経営コンサルタントをしていたとの虚偽の申告をし、会社は、この虚偽の経歴も重視してAさんの労働力を評価し、本件雇用契約を締結したことが認められるのであって、本件雇用契約に先立ち、Aさんが前記期間中、逮捕・勾留され、2年6ヶ月の実刑判決を受けて服役していたという真実を会社に告知していた場合、会社はこれに基づいてAさんの労働力や信用性を評価し、また企業秩序に対する影響等を考慮し、本件雇用契約を締結しなかったであろうと認められ、かつ客観的に見ても、そのように認めるのが相当であると言える。」とし、「本件服役等の事実が発覚した後、会社はAさんに対し、弁明の機会を与え、さらに30万円の支払いを提示して自主退職の機会も与えたことが認められ、本件解雇に至るまでに相当な手続きを履践したと言える。」等を根拠として、本件懲戒解雇を有効と判断しました。

上記の裁判例は、犯罪歴の詐称だけでなく、職歴の詐称も存在した事例です。

職歴は、中途採用者の場合、当該労働者を採用するかどうかの決定的な動機となることに加え、採用後の業務内容や賃金設定にも大きく影響してきますから、非常に重要な経歴であり、一般的に、職歴の詐称は、懲戒解雇事由に該当します。

一方、犯罪歴の詐称についてですが、これも経歴詐称に該当するものの、職歴の詐称が、採用後の業務内容や賃金の評価に重大な影響を及ぼすのに対し、犯罪歴の詐称の場合には、当該労働者の労務提供の内容に影響しないことも多いため、重大な企業秩序違反であるかの判断は、難しい部分があります。

例えば、酒に酔って傷害事件を起こしたことがある場合、通常、業務中に職場で飲酒をすることはありませんから、職場や他の従業員に悪影響を及ぼすことはないと言えます。

一方で、女性が多い職場において、男性従業員が、過去に性犯罪歴があったことが分かれば、これは女性従業員の業務遂行に悪影響を及ぼすことは明らかです。

逮捕

このように、犯罪歴の詐称の場合には、単に犯罪歴を詐称していたという事実だけでは解雇が有効と判断されないことも想定されますので、犯罪の内容や性格などによって、実際の業務や企業秩序にどの程度の影響を与えるかを十分に吟味しなければなりません。

そもそも、こうした経歴詐称による問題が生じないようにするためには、やはり採用面接を通じ、本人に確認することが必要です。

職歴については、履歴書等により本人からの申告がありますが、犯罪歴については、様式によっては履歴書に賞罰欄がないこともあります。

そのため、採用面接時に賞罰の有無を確認せず、入社後に犯罪歴が明らかになった場合に経歴を詐称と言えるかどうかが問題となります。

その点について、就業規則上の懲戒解雇事由に該当する「雇入れの際、採用条件の要素となるような経歴を偽ったとき」とは、「労働者が面接担当者の質問に対し虚偽の意実を応答したこと」を意味し、「質問がないのに自発的に申告しなかったことは含まれない」と判断した裁判例もありますので、やはり、労働者からの自発的な申告を待つのではなく、会社から申告を求めるべきだと思います。

なお、ここでいう「賞罰」の「罰」とは、一般的に確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味し、単なる逮捕、不起訴処分等(いわゆる「前歴」)は含まず、信義則上、会社に申告義務があると考えられています。

一方で、前歴についてまでは信義則上の義務を負担するものではないと考えられていますので、労働者からの自発的な申告は期待できませんから、やはり会社からの申告を求めるべきだと思います。


懲戒処分のトラブル

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