工場が火事で使えないときの休業手当は必要?

当社は、東京都内に本社・工場を構える、従業員数約30名程の零細企業です。主に自動車関連部品の製造・加工を営んでおり、この地で創業して約70年になります。

この地域は、昔から中小零細企業の工場が多く存在しているのですが、先日近隣の工場で爆発事故に伴う火災が発生しました。火災により、その工場は全焼し、その結果、近隣の工場や住宅にも、被害が及んでしまいました。

当社は、その工場から少し離れた場所にあるのですが当日は強風が吹いていたこともあり、当社の工場の一部が延焼してしまいました。幸いケガ人は無かったものの工場の修復のために、2週間程度を要することになりました。

「しゃ、しゃ、社長!工場が火事で大変なことになりました・・・。こんなことになるなんて・・・。」

「そうだなぁ、総務部長。ケガ人が出なかったのはいいが、これじゃぁ、しばらく仕事にならんな。」

「まずは、工場の修復が第一ですね。となると、工場が修復するまで、みんなには休んでもらうしかないですかね。」

「そうだな。これじゃ仕事にならないからな。俺はこれから、銀行に行って、修復資金の融資をしてもらえるように、交渉してくるから、みんなには、総務部長から伝えておいてくれ。」

「はい社長、分かりました。工場の修理が終わるまで、会社は休みということで対応します。」

こうして総務部長は、全社員を集めて説明をすると、社員から質問がありました。

「部長、質問があるんですが・・・。会社を休んでいる間の賃金は出るんですか?」

「当社は日給月給制なので、休んでいる間の賃金は発生しません。各自有給休暇を取得するという形で対応して頂きたいと思います。」

「部長、それは構いませんが、修復までの日数が延びると有給休暇が足りなくなってしまうのですが?」

「部長、私なんか、そもそも有給休暇の残日数がありません。どうすればいいんですか?」

「えーーー、賃金については、社長にも確認して、後でご連絡しますので、少し待って下さい。」

その後、社長の帰りを待って、総務部長は社長に相談しました。

「社長、先ほど社員に説明をしたんですが、みんなからその間の賃金について聞かれまして・・・。」

「有給休暇がなくなったら無給でしようがないんじゃないか?社内での火災ならともかく、社内では防火体制もしっかり取っていたんだし。今回の火災は、会社に非がある訳でもないだろう。」

「そうですね社長、分かりました。それでは、社員にはそのように伝えることにします。」

さて、このような場合、会社に賃金支払義務はあるのでしょうか?

民法536条2項では、次のように規定されています。「債権者(=会社)の責めに帰すべき事由によって債務を履行(=労務提供)することができなくなったときは、債務者(=労働者)は、反対給付(=賃金)を受ける権利を失わない。」分かりやすく言えば、労務提供をしなかった場合、原則として労働者は賃金を受ける権利を失いますが、それが会社の責任であれば、賃金の全額を請求できるということになります。

残業申請

そして、民法上の「会社の責に帰すべき事由」とは、「会社の故意、過失または信義則上これと同視すべきもの」と解されています。

したがって、休業の原因が、「会社の故意、過失または信義則上これと同視すべきもの」かどうかが問題となりますが、少なくとも故意ではありませんから、過失または信義則上これと同視すべきものかどうかということがポイントになります。

この点、会社において、法令等に基づいた防火体制がとられており、防火体制も機能していた等の事情があれば、会社の過失または信義則上これと同視すべき事由はないと言えますから、賃金支払義務は発生しないことになります。

しかし、民法上賃金支払義務が発生しない場合であっても、次のような労基法26条の規定により、休業手当の支払義務が発生する可能性があります。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」

労基法上の「使用者の責に帰すべき事由」とは、民法上のそれよりも概念が広く、「企業の経営者として不可抗力を主張し得ないすべての場合(例えば経営上の理由により休業する場合)も含む」ものとされ(国際産業事件 東京地裁 昭25.8.10)、民法上は使用者の責に帰すべき事由とはならない経営上の障害も、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含むもの、と解されています。(ノースウエスト航空事件 最高裁二小 昭62.7.17)

また、不可抗力であるかどうかについては、行政解釈によれば、次の2つの要件を満たすことが必要とされています。

  1. その原因が事業の外部より発生した事故であること。
  2. 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けることのできない事故であること。

そして、1.の「事業の内外」であるかどうかの区分の基準については、行政解釈によると、「最も広義における営業設備の範囲の内外を指すものと解される。すなわち、事業主の監督または干渉の可能なる範囲における人的・物的のすべての設備は事業の内部に属するもの」とされています。

そうしますと、休業の原因が、事業の外部で発生した火災が原因であり、且つ法令等に基づいた防火体制がとられており、防火体制も機能していたとすれば、不可抗力によるものと言え、労基法26条における「使用者の責に帰すべき事由」に該当しませんから、休業手当の支払義務もないと考えられます。

もちろん、法令等に基づいた防火体制がとられていない等、会社の落ち度がある場合であれば、民法上も労基法上も、会社の責に帰すべき事由がある、と考えられます。

このような場合には、平均賃金の60%の休業手当を支払っても、民法上の賃金支払義務は残ることに注意しなければなりません。

ただし、民法536条2項の規定は、任意規定であるため、労使の合意によって、これを排除することができます。例えば就業規則等により、使用者の責に帰すべき事由によって休業した場合においては、平均賃金の6割から10割の範囲内で手当を支払う旨が定められている場合には、その額を支給することによって、民法上の賃金支払義務も果たしたことになると考えられます。


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