営業手当は定額残業代として支払えるか?

当社は、大手電機メーカーの製造する商品の卸売り販売をしている株式会社です。最近は不況の影響もあり、業績があまり宜しくないため、業界経験者を積極的に採用して、営業力を強化すべく、努力しています。

ここ5年間で3名の営業経験者を採用しましたが、いずれの社員も、期待通りの活躍をしてくれたお陰で、業績も徐々に回復して参りました。

そこで、更なる業績の向上を図ろうと、昨年営業経験者であるA社員を採用しました。しかし、A社員は、以前採用した社員と比べて、思い通りに営業成績があがらず、伸び悩んでいます。

「営業課長。A社員は、もうそろそろ入社して1年半が経とうとしているが、最近の調子はどうなんだ?」

「あっ、社長。そうですねぇーーー。まぁ、以前に比べれば、多少は成果をあげるようになってきましたが、他の営業社員に比べると・・・。」

「そうかぁーーー。確かに他の営業社員と比べれば、業界の経験は浅いから、やむを得ないかも知れないが、しっかり教育をしてやってくれ。」

「はい、わかりました社長。A社員の成績が改善されるよう、私なりに出来る限りのことはやってみます。」

しかし、営業課長や先輩社員から指導を受けているものの、なかなか思うように成果が出ない状況が続いていたため、A社員は、すっかり自信が持てなくなってきました。

「ねぇねぇ、B先輩。俺ってさーーー、結構頑張ってやってると思うんだけど、どうなんすかねぇーーー?」

「そうだなぁ~。頑張ってやっているとは思うけど、我々営業マンは、成果をあげてナンボだからな。」

「確かに先輩たちみたいな成果は出ていないかも知れませんけど、一番遅くまで会社に残って仕事しているのは僕ですよ。それなのに、うちの会社は、残業代も出ないし、これじゃ住宅ローンの支払いが大変っすよーーー。」

「そりゃ仕方ないだろ?俺らは営業マンなんだから、残業代なんて出ないさ。その代わりに営業手当が出てるんだろ?」

「・・・そりゃー営業手当は出てますけど、それって残業代と何か関係があるんすかねぇーーー?」

「残業代が出ない代わりに営業手当が支給されているんだろ?確か入社のときに、俺はそう説明されたけどな。それに、休日勤務手当は出てるんだろ?」

「確かに休日勤務手当は出ていますけど。でも営業手当って、以前の会社でもありましたけど、お客さんとの外食費や、通信費、あと衣服代や靴代等、色々支出があるだろうからっていう意味だったっすよーーー?」

「それは、前の会社だろ?俺が入社したときには就業規則を貰ったけど、就業規則にも営業手当の支給対象者は残業代を支給しないっていうような文面があったと思うけど?君は貰ってないの?」

「あぁーーーあれね。とりあえず貰いましたけど、面倒くさくて詳しくは見てないっすよーーー。」

会社によって、呼称は様々ですが、いわゆる残業代の算出方法については、労働基準法37条に規定されていますから、原則として、その規定に基づいて算出し、支払うべき義務があります。

しかしながら、先のように、営業マンには営業手当を支払うから、いわゆる残業代は支払わないという取扱いをしている会社は、結構存在していると思います。

このような取扱いは、労働基準法37条の規定とは異なりますので、本来は違法となるのですが、営業手当の位置づけによっては、適法とされることがあります。

この会社の場合、営業手当に関し、実際の就業規則には、次のように規定されておりました。

「営業等社外での勤務を主体とする者には、営業手当を支給します。但し、営業手当支給該当者は、超過勤務手当は支給されません。なお、営業手当支給該当者でも休日に勤務した場合については、休日勤務手当を支給します。」

営業手当

このように規定されている営業手当の位置づけについて、裁判所は、「会社の就業規則においては、別紙の通り規定されていること、営業手当はセールスマンの時間外勤務時間の調査結果を基に定めたこと、右営業手当の額では休日労働に対する割増賃金を充足するものではないので、営業手当受給者に対しても休日勤務手当を別途支給していることが認められ、右認定事実、特に就業規則の内容、ならびに証人の証言によれば、営業手当は休日労働を除く所定時間外労働に対する対価として支払われるものであり、いわば定額の時間外手当としての性質を有することが認められる。」として、会社が支給している営業手当の位置づけに関し、会社の主張を認めました。

一方、A社員が主張する営業手当の位置づけに対しては、「原告(A社員)は、営業手当は、外食費等、外勤に伴う様々な支出に対する補償であり、原告が以前勤めていた会社では、そのような取扱いであった旨証言するが、他の会社の取扱いから、会社の営業手当の性質を決定するのは妥当とは言えないし、右は原告の考え方であり、その裏づけとなる根拠を有するものとは認められないので、右供述は前認定を左右するものではない。」と判示しました。

このように、いわゆる残業代に代わって営業手当を支給する場合であっても、その旨が明確に規定され、会社と労働者との契約内容になっているのであれば、法律上問題はありません。

ただし、いわゆる残業代として位置づけられた営業手当を支給していたとしても、無制限に時間外労働に対応できる訳ではありませんから、全く問題がないとは言い切れません。

この点について、先の裁判例では、引き続き次のように判示しています。

「労働基準法37条は、時間外労働等に対し、一定額以上の支払を使用者に命じているところ、同条所定の額以上の割増賃金の支払がなされる限り、その趣旨は満たされ、同条所定の計算方法を用いることまでは要しないので、その支払額が法所定の計算方法による割増賃金額を上回る以上、割増賃金として一定額を支払うことも許されるが、現実の労働時間によって計算した割増賃金額が右一定額を上回っている場合には、労働者は使用者に対しその差額の支払を請求することができる。」

つまり、残業代として位置づけられた営業手当を支給していても、労働基準法に基づいて計算した残業代と比べ、営業手当の金額が下回っている場合には、その差額を支払う必要がありますから、その点には、注意が必要です。


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