年休の取得理由と休業手当との関係

年次有給休暇の取得目的を問いただしたり、風邪をひいた労働者を会社が強制的に休ませることはできるのでしょうか?
原則、年次有給休暇の利用目的を申し出るよう義務づけたり、その内容により年次有給休暇の取得を妨げることはできません。また、労働者に就労請求権はなく、他の従業員への感染の恐れもあることから、休業手当の支払い義務は発生しますが、労務提供の受領を拒否することは可能です。
このコンテンツの目次
  • 年次有給休暇の取得目的
  • 感染症法と休業手当
  • 事例詳細

年次有給休暇の取得目的

  • 年次有給休暇をどのように利用するかは、労働者の自由であり、基本的に会社に利用目的を伝える義務はない
  • 原則、利用目的を申し出るよう義務づけたり、その内容により年次有給休暇の取得を妨げることはできない

感染症法と休業手当

  • 感染症法では、感染症を「①一類感染症~五類感染症、②新型インフルエンザ等感染症、③指定感染症及び新感染症」に分類しており、①のうち一類感染症~三類感染症、および②に罹患した場合には、国が入院勧告や就業制限といった措置をとることができる
  • その範囲を超えて、会社が独自に休みを命じた場合には、賃金(休業手当)の支払義務が生じる

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事例詳細

当社は、都内で広告業を営む20名程度の中小企業です。2019年に労基法が改正され、年10日以上の年次有給休暇(以下「年休」という)が付与される労働者に対し、5日以上取得させることが義務付けられたため、全く取得していないAさんに、早く取得するよう促しました。

営業部長

君は昨年の4月から一度も年休を消化していないね。来月までに5日消化するように!

A社員

分かりました。部長、では来月の勤務日は保有している全ての年休を消化したいです。

営業部長

全て? A君、取得してくれとは言ったが、それはさすがに困るよ。そもそも、そんなに休んでどうするつもりだい?

A社員

なんで休むのかは、言いたくありません。しかも、それを言う必要もないと思います。

部長は、むっとしましたが、Aの担当している業務が幸い閑散期だったため、最終的には認めることにしました。そして、全ての年休を消化した後のことです。

営業部長

A君、どうしたんだい? 顔色がひどく悪いよ。休暇中、いったい何をしてたんだ?

A社員

実は、ここ数日高熱が続いています。でも休暇中のことは何も言いたくありません。

営業部長

君のことが心配で聞いているんだよ。今すぐ病院にいって治るまで家で休みなさい。

A社員

嫌ですよ。休むと給与が減ることになるじゃないですか。だから頑張ります。

営業部長

君が働けると言っても、他の従業員に病気が広がる可能性だってあるんだぞ。

A社員

休んだ分の給与を会社が保障してくれるんだったら、帰りますが、どうなんですか?

先日に続き、部長は開いた口が塞がらなくなりましたが、そもそも、会社は、年休の申請時に利用目的を、問いただせないものなのでしょうか。

また、病気の疑いがあるAさんに対し、会社が休みを命じた場合、その間の賃金はどうなるのでしょうか?

年休の利用目的を聴くこと

まず、年休の利用目的の聴取について、年休をどのように利用するかは、労働者の自由であり、基本的に会社に利用目的を伝える義務はありません。そのため、利用目的を申し出るよう義務づけたり、その内容により年休の取得を妨げることは原則できず、詳細な理由を申し出ないからといって、取得を認めないことや、不利益な取り扱いをすることは、違法となります。

一方、過去の裁判例で、複数の者が、同一日に年休の取得を申し出た場合に、時季変更権行使の順を決める目的で利用目的を聴取した場合や、年休の付与が、事業の正常な運営を妨げるところ、事情次第では時季変更権の行使を差し控えようとして、利用目的を問う場合等、年休の取得理由の聴取が違法ではないとされた例もありますので、実際に時季変更権の行使をせざるを得ないような状況下であり、社会常識に照らして、年休の取得理由を聴取する合理的な理由がある場合は、許されるものと考えられます。

年休と休業手当との関係

次に、病気の疑いのある従業員に対し、会社が休みを命じた場合、休業手当の問題が生じることになります。

なお、労働安全衛生法施行規則第61条の「病者の就業禁止」によれば、「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者については、その就業を禁止しなければならない」とあります。また、「伝染予防の措置を講じた場合は、この限りではない」とも規定されており、これは行政解釈によると、「法定伝染病については、伝染病予防法 (現在は感染症法)によって予防の措置がとられるから本号の対象とならない」(昭24.2.10 基発第158号、昭33.2.13 基発第90号)とされていることから、感染症法に該当する感染症であれば、労働安全衛生法上の就業禁止とは取り扱わず、感染症法上の規定に委ねるということを意味しています。

一方感染症法では、感染症を「①一類感染症~五類感染症、②新型インフルエンザ等感染症、③指定感染症及び新感染症」に分類しており、①のうち一類感染症~三類感染症、および②に罹患した場合には、国が入院勧告や就業制限といった措置をとることができるとされています。そして、その範囲を超えて、会社が独自に休みを命じた場合には、賃金(休業手当)の支払義務は生じることになります。

感染を拡大させないことが一番大事

通常、風邪や感染症等にかかると自主的に休む方が多いかと思いますが、Aさんのように、無理をしてでも出社しようとするケース等も想定されます。そういった場合、休業手当の問題は残るのですが、労働者に就労請求権はなく、他の従業員への感染の恐れもあることから、労務提供の受領を拒否することは可能です。

そして、スムーズに休業させるためにも、事前に就業規則に規定しておくことが、労務管理上適切だと考えます。

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