業績不振で採用内定を取り消し?
業績不振で採用内定を取り消し?
業績不振で採用内定を取り消す場合、どのように対応するべきなのでしょうか?
→ 業績の改善や希望退職者を募集するなどの努力をしてもなお、内定取り消しがやむを得ないのであれば、和解金をもって示談交渉をし、新卒の場合はハローワークか学校の長へ通知しましょう。
目 次
- 和解金の相場
- 内定取消の通知
- 事例詳細
和解金の相場
- 内定取消の場合における労働弁護団がいう和解金は、400万円とされている
内定取消の通知
- 職安法施行規則第35条第2項では、高校・大学等の新規卒業者の採用内定の取り消しの場合は、所轄のハローワークまたは学校の長へ通知するものとされている
事例詳細

株式会社円満興業(仮名)では、昨年久しぶりに大卒者の採用内定を決めました。
わずか1名の採用ですが、応募者十数人から選んだ、非常に優秀な人材です。
ところが、年末に入り、世界的な大不況が到来し、取引先からの注文が徐々に減少し、生産ラインによっては、稼働率が半減する状況になってしまいました。
社長は、毎日取引先を回るなどして、懸命の努力をしていますが、何せ100年に1度の大不況ですから、受注が復活する見通しがまったく立ちません。
雇用契約の期間の定めのある従業員については、契約期間満了をもって更新しないという対応も実施しましたが、それだけでは足らず、正社員の希望退職者の募集も行いました。
しかし、このような不況時に職を失ったら、今と同じレベルの職が見つかるかどうかも分かりませんから、応募者は誰もいませんでした。
こうした状況のもと、会社は、4月に入社してくる新入社員の内定取り消しもやむを得ないと考えるようになり、内定者を会社に呼んで、社長が直接話しをすることになりました。
「当社としても、君のような人材を採用し、将来の幹部候補生として育成するつもりでしたが、今説明しましたように、正社員にも十分な仕事がない状態です。誠に申し訳ないのですが、内定についてはなかったことにしていただけないでしょうか。」
「今の時期に取り消しですか。私はもう御社に入れるものと思い、他の会社から頂いた採用内定も断ってしまっていますし、4月から働くことを考えたら、今の時期から就職活動を行うのは厳しすぎます。」
「お気持ちはよく分かります。当社としても最大限の誠意を示させていただくつもりです。」
ということで、後日、内定者とその父親を会社に招き社長が内定取り消しに伴う慰謝料の示談交渉を行うことになりました。
会社が内定者に提示した金額は、300万円で、その内訳は、以下の1.と2.の合算です。
- 月給20万円×12ヶ月=240万円
- 賞与20万円×3ヶ月分(年間5ヶ月分が支給されると想定し、支給されない夏の賞与2ヶ月分を差し引く)=60万円
ちなみに、このような就職内定者の内定取り消しにおける労働弁護団がいう和解金は、400万円(前述の300万円に100万円の慰謝料を加算)といわれています。
社長が話をまとめて帰ってきたところ、総務課長と鉢合わせしました。
「あ~そういえば総務課長、例の内定者の問題なんだけど、無事に、円満解決したから安心してくれ。」
「その件ですが、社内処理だけでよろしいのでしょうか。何か役所へ届け出る必要はありませんでしたか。」
「その辺は君の専門だろ?彼の場合は、新聞で公募したんだから、ハローワークは何も関係ないだろう?」
「そう思うのですが、以前何かの本で、内定取り消しの場合などに、どこかに通知しなければならないと書いてあったような気が・・・。」
総務課長の記憶の通りです。
罰則の適用はありませんが、職安法施行規則第35条第2項は、高校・大学等の新規卒業者の採用内定の取り消しの場合、所轄のハローワークまたは学校の長への通知を義務付けています。
なお、今回の事例は業績不振という会社都合の内定取り消しでしたが、労働者が入社に際して、労務提供において大事な履歴を詐称したり信頼関係を破綻させるような嘘をついたような場合に内定の取り消しを検討できるよう、就業規則には採用取り消しを定める規定を入れておくとよいでしょう。
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