所持品検査はどこまでできるのか?

所持品検査はどこまでできるのか?

就業規則に規定があるにもかかわらず、社員が所持品検査を拒んだ場合、懲戒解雇を科しても問題ないのでしょうか?

→ 事案によりますが、社員が所持品検査を拒んだのは、検査に従わない意図で、あるいは職場秩序を乱そうとする意図で行った訳ではなく、さほど悪質ではないとして、懲戒解雇が無効とされた例があります。

目 次

  • 就業規則の有効性
  • 懲戒解雇の有効性
  • 事例詳細

就業規則の有効性

  • 所持品検査が必要であり、実施方法が妥当であれば、検査は違法ではなく、就業規則も無効とは言えない

懲戒解雇の有効性

  • 所持品検査の拒否が、検査に従わない意図で、あるいは職場秩序を乱そうとする意図で行った訳ではなく、さほど悪質ではなければ、懲戒解雇は無効と判断される

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事例詳細

当社は、金属部品の製造・加工業を営んでおり、工場では、多量の金属類が使用され、各所に地金類や金属製品が置かれています。

従業員は、一旦更衣室で作業着に着替えますが、ハンドバッグ等の私物を作業場に持って行くこともあり、工場内に出入りする者が、地金類を持ち出しすることも不可能ではありません。

所持品検査

過去にも数回、そうした事例があったため、当社工場では、入場門の守衛所でしばしば所持品の検査を実施していました。

しかし、厳格になされていた訳ではなく、いつも紙袋を持っている者に対しては、そのまま通らせることが多く、ましてや守衛からその中身を開けて見せるように要求されることはありませんでした。

そんなある日、従業員に対する当社の商品の頒布会が行われました。当日は、従業員が頒布を受けた商品を所持して退出することが想定されたので、総務課長の指示に基づき、守衛3名による携帯品一斉検査が行われることになりました。

A社員(女性)はハンドバッグを持つ他に、風呂敷包みが入っている手提袋を掛けていたので、守衛は不審に思い「それは何ですか?」と尋ねると、A社員は「新聞です。」と答え、手提袋を机の上に置きました。

そこで守衛は「開けて見せて下さい。」と要請しました。

するとA社員は「見せられません。」と答え、そのまま足早に退出してしまいました(ちなみに、中身は私物の新聞とファイルだったそうです)。

翌日、総務課長は、前日に起きたA社員の件について人事部長に報告しました。

報告を受けた人事部長は、今回の件を大変重大なことと捉え、A社員には、依願退職をさせるか懲戒解雇するか以外に方法は無いと考え、詳細な事情を調査するために、A社員の直属の上司である検査課長を呼んで、事情を調査するように命じました。

検査課長も、やはり事の重大性を感じ、依願退職か懲戒解雇の他には無いと考え、A社員への事情聴取の際に依願退職を勧めようと決意しました。

「持ち物点検を拒んだということは、非常に重大なことで、就業規則に違反する行為だ。職場規律を乱したということで、懲戒解雇に該当するが、このようなことをしてしまって、どう思っているのかね?」

「点検することがおかしいと思います。親でも警察でも持ち物点検はできないはずです。」

「就業規則に違反していることに、変わりはないじゃないか。人事からは懲戒解雇だと強く言われているけど、私が全力を挙げて依願退職の形に持って行くから、退職願を書きなさい。」

「私は、懲戒解雇には該当しないと思います。依願退職の形にしたいとも思いません。」

「点検することがおかしいと言うけど、それは就業規則を認めないということかね?」

「就業規則を認めないというのではありません。点検することを認めないということです。基本的人権は、会社の規則に優先するものだと私は思います。」

「そうすると、今後持ち物点検をした場合、そういうことには協力できないということだね?」

「そうなりますね。基本的人権が最も優先されるのは、当然のことだと思います。」

「もう一回だけ言うけれど、いつでもよいから、私のところに退職願を持って来なさい。」

こうして、1回目の事情聴取は終わり、翌日の夕方に2回目の事情聴取が行われました。

「考えてくれたかね。Aさんは、入社するとき就業規則を遵守するという誓約書を差し入れているのに、就業規則を認めないというのは矛盾しないかね。」

「・・・矛盾するかしないかと言われれば、矛盾するのかもしれませんが、でも認めるわけにはいきません。」

「私は、依願退職の形に持って行きたいんだが。もう一度確認するが、就業規則は認めないんだな?」

「所持品検査は普通に見せました。拒んだことはありません。今回のことは、自分でも良く分かりません。衝動的にあのような態度をとったので、その時の心理状態は、今でも説明できませんが、でも、点検は憲法違反だから認めません。」

「そうか。規則を守れない人と一緒に仕事はできないな。もう一度依願退職にすることを考えてくれ。懲戒解雇は、あまりにもAさんの将来に重大なことだから。」

検査課長は、この件を人事部長に報告したところ、人事部長はA社員を懲戒解雇することに決め、A社員を懲戒解雇としました。

さて、所持品検査については、その性質上、常に人権侵害の恐れを伴うものであるため、これを必要とする合理的理由があり、一般的に妥当な方法と程度で、しかも就業規則その他明示の根拠に基づいて、制度として職場従業員に対して、画一的に実施されるものでなければならないと最高裁は判示しております。

今回のケースでは、就業規則に規定する所持品検査について、その必要性と、その方法(一斉検査として退勤者全員を対象とし、その検査方法も身体検査に類するようなことは行わず、被検査者に不当に羞恥心、屈辱感を与え、人権を侵害する恐れが少ない)からして、当該検査は違法ではなく、就業規則も無効とは言えないとされました。

一方で、懲戒解雇については、従業員が所持品検査を拒否したことについて、当時所持品検査が厳重に実施されておらず、その重要性についても特別の教育を受けていなかった本人が、それが従業員としての義務であることを深く認識することなく、格別の理由もなく全く衝動的に行ったものであって、当該検査に従わない意図で、あるいは職場秩序を乱そうとする意図で行った訳ではなく、さほど悪質ではないとして、懲戒解雇を無効と判断しています。

懲戒解雇が有効となるかどうかについては、難しい問題ではありますが、特に業務上現金等を取り扱う機会があるような会社については、所持品検査を適法に実施することができるよう、少なくとも就業規則その他で明示の根拠として規定しておくことが必要と言えるでしょう。


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