退職金を支払った後に不正が発覚!?
退職金を支払った後に不正が発覚!?
退職した社員に退職金を支払い、その後不正が発覚した場合、退職金を返金してもらうことはできるのでしょうか?
→ すでに労働契約が解消されていることから懲戒権も行使できず、計算間違いや不正受給の立証がない限り、返還請求が認められることはないでしょう。
目 次
- 退職金の支払いと規定
- 事例詳細
退職金の支払いと規定
- お金にかかわる業務や部署に所属する社員が退職する場合は、在職中に不正がなかったかを確認する
- 退職金の規定については、支払条件や支払方法だけでなく、支払時期についても再度検討したほうがよい
事例詳細
先日、ある会社の社長さんから次のような相談を受けました。
「先生。実は、1ヶ月半前に退職した社員の不正が発覚しました。ところが、退職金はその社員が辞めた後、通常の退職手続の中で既に支払ってしまったのです。」
「そうですか、社長。それで、その退職した元社員は、どのような不正をしたんですか?」
「問題の社員は、営業の社員であり、取引先との間で金銭的な不始末を起こしたんです。彼は、その事実が露見する前に、自ら退職していったようです。」
「それはふざけた奴ですねぇ。ところで、どのくらいの被害が会社には発生するのですか?」
「現在、精査中ですが、その金銭的損害は1千万円以上にもなりそうです。このようなことが分かっていれば、当然、懲戒解雇で、当社の就業規則では懲戒解雇の場合は、退職金を支払わない旨規定されているので、退職金は支払わなかったはずです。」
「それはそうでしょうねぇ。会社に1千万円以上の損害を与えた社員に、退職金なんか支払えませんよね。」
「そうなんですよ。そこで相談なんですが、当社は、会社が受けた損害については、本人に損害賠償の請求を行い現在折衝中です。そして、懲戒解雇であれば受け取れなかったはずの退職金も、当然、会社に返還させたいのですが、これは可能でしょうか?」
「すでに退職した元社員に支払った退職金を、会社に返還させることができるかということですよね?うーーーん。これは法的には難しいですねぇ。なぜなら、すでに退職したということは、労働契約は解消され、社員としての地位もないわけですから、いまさら就業規則を持ち出して懲戒権を行使することもできません。そして退職金も就業規則に規定があり、会社との間で契約事項になっているのであれば、それは賃金であり、いったん社員の手に渡ってしまった以上、計算間違いや、社員に不正受給の意図があったと会社側が立証できない限り、返還請求が認められることはまずありません。不正が露見していれば、確かに懲戒解雇で退職金も支払わずに済んだかもしれませんが、現実には彼が在職中には露見しなかったのですから、退職金の規定に従って支払わなければならなかったでしょうね。」
「そうですか・・・(ガックリ)。あんな奴には退職金なんか、びた一文も支払いたくなかったのですが・・・。」
退職時には、十分な調査と確認が必要
「高い授業料になったかもしれませんが、今後このようなことにならないように、十分な対策を打ちましょう。」
お金にかかわる業務や部署に所属する社員が退職する場合は、このようなことがないよう十分に調査をし、在職中に不正がなかったか確認する必要があります。
そして、就業規則に退職金の規定がある場合、その支払条件や支払方法だけでなく、支払時期についても再度検討したほうがよいと思います。

よく一般に誤解されている労基法第23条1項に、労働者の退職の場合において、権利者の請求のあった日から7日以内に支払うこととする金品の返還についての定めがありますが、退職金については、通常の賃金の場合と異なり、あらかじめ就業規則等で定められた時期に支払えば足りるとされています。(昭26.12.27基収5483号、昭63.3.14基発150号)
あらかじめルールを明確にしておくことが重要
従って、退職金の支払いについては、あらかじめルールを明確にしておけば、支払時期は使用者(会社)が決定できるものであり、支払方法としても分割支払いにすることも可能です。
上記の社長のようなことがないよう、「会社は、退職金は社内の調査が終了したのち、退職日から3ヶ月以内に支払う。」等、就業規則や退職金規程に定めておいたほうがよさそうですね。
退職金について正しく定めておかないと、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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