残業代込みの年俸制は認められるのか?

残業代込みの年俸制は認められるのか?

年棒制に合意した労働者に対しては、時間外勤務手当を支払わなくてよいのでしょうか?

→ 年俸制を導入しさえすれば、時間外勤務手当を支払わなくて済むというわけでなく、時間外勤務手当は、当然に支払う必要があります。

目 次

  • 年棒制を導入したときの時間外勤務手当
  • 年棒額に賞与を含んでいる場合
  • 事例詳細

年棒制を導入したときの時間外勤務手当

  • 時間外勤務手当は、当然に支払う必要がある
  • ただし、年俸額のうち時間外勤務手当の部分を区分し、その額が明確であれば、時間外手当を含んだ年俸制導入は可能であり、その額に達するまでは、別途時間外勤務手当を支払う必要はない

年棒額に賞与を含んでいる場合

  • 原則、賞与は「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当し、割増賃金の基礎額には算入しない
  • ただし、「支給額が確定しているものは賞与とはみなされない」ため、当該確定した賞与部分を含む年俸額を算定の基礎として、割増賃金を支払う必要がある

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事例詳細

当社は、測量、土木工事の設計・監理、建設工事の設計・監理、および地質調査等を主たる業務とする会社です。

先日、中途採用として、A社員を雇用することにしました。

当初3ヶ月間の試用期間を設け、その間の賃金は基本給20万円、残業代は別途支給、という内容でしたが、A社員は勤務態度もよく、きちんと業務もこなしていることから、正社員として正式に採用することとしました。

「社長。あのーーー、先般採用したA社員の、試用期間後の給与のことなんですけど。」

「あーーー専務、彼はよくやってくれているようだし、基本給を3万円位上げようか。」

「社長。今後A社員には、工事測量もやってもらう予定なので、工事現場の時間に合わせると就業時間も不規則になったり、残業も多くなったりする可能性もありますから、残業代もひっくるめて年俸制にしたらどうかと思うんですが。どうですか。」

「おーーー、それはいい。名案だな専務。そうしよう、そうしよう。さっそく彼にも伝えてくれ。」

後日、社長と専務は、A社員を呼んで、新しい給与体系についての説明をすることにしました。

「Aさん。あなたの働き振りを考慮して、試用期間後は正社員として正式に登用したいと思います。」

「あ、あ、ありがとうございます。・・・ちゃんと評価していただいて嬉しく思います。」

「それで、今後の給与なんですが、これからは残業代も含めて、年俸制として年額400万円とし、これを14等分して、14分の1の25万円を月額支給し、残りを夏冬の賞与時に、14分の1ずつ支払うことにしたいんですが。」

専務は、こう説明すると、労働条件を記載した労働契約書をA社員に提示しました。

A社員に提示された労働契約書には、給与の内訳として、年俸として、年額400万円とし、月額基本給25万円、夏季賞与25万円、冬季賞与25万円として支払う旨の記載がなされておりました。

A社員は、その場では署名捺印はしませんでしたが、翌日には署名捺印の上、労働契約書を専務宛に提出し、その後の給与明細書にも、基本給25万円の記載のみでありましたが、A社員から特段の申し出等はありませんでした。

しかし、約2年後に、A社員の担当業務が変更となったことにより、時間外労働の時間数が相当多くなってきたため、A社員は専務に申し出をしました。

「あの・・・専務すみません。残業がとっても多いのですが、残業手当をいただく訳にはいきませんか?」

「Aさん。あなたの労働契約は、残業代込みの年俸契約ですから、残業代はすでに含まれているんですよ。あなたも了解してサインしましたよね。」

会社は、A社員の給与には時間外勤務手当が含まれているからという理由により、A社員からの申し出を却下しました。

その後、しばらくA社員は勤務していましたが、残業が増え、同僚に対して、「しんどい」と漏らすようになるなど、勤務を続けることがつらくなってきてしまいました。

そして、相応の給与が支払われていないと思うようになり、いつしか欠勤届の提出もないまま、欠勤するようになってしまいました。

すると、その数ヶ月後、裁判所から会社宛に時間外勤務手当の未払いを請求する訴状が送達されてきました。

会社としては、A社員が正社員になる際に、時間外勤務手当を含めた年俸制を適用し、時間外勤務手当は支払わないという労働条件に変更することを説明し、A社員本人からも署名捺印を貰っています。

こうした状況があった場合でも、会社は時間外勤務手当を支払わなければならないのでしょうか?

これについて裁判所は「年俸制を採用することによって、直ちに時間外勤務手当を支払わなくともよいということにはならないし、そもそも、使用者と労働者との間に、基本給に時間外勤務手当を含むとの合意があり、使用者が本来の基本給部分と時間外勤務手当とを特に区別することなく、これらを一体として支払っていたとしても、労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払いを確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから、基本給に含まれる時間外勤務手当部分が、結果において、法定の額を下回らない場合においては、これを同法に違反するとまでいうことはできないが、時間外勤務手当部分が法定の額を下回っているか否かが、具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は、同法同条に違反するものとして、無効と解するのが相当である。」と判示しました。

残業代

このように、当該労働者が、労基法41条2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」等に該当しない限り、年俸制を導入しさえすれば、時間外勤務手当を支払わなくて済むという訳でなく、時間外勤務手当は、当然に支払う必要があることになります。それを踏まえた上で、あとは、支払い方を工夫することが必要です。

つまり、先の裁判例のように、年俸制を採用したという理由のみをもって、時間外勤務手当を支払わないという理屈は通りませんが、年俸額のうち時間外勤務手当の部分が区分され、その額が明確になっていれば、時間外手当を含んだ年俸制導入は可能であり、その額に達するまでは、別途時間外勤務手当を支払う必要はありません(もちろん、実際の時間外労働から算定した時間外勤務手当が、年俸額に含まれる時間外勤務手当を上回れば、その差額を支払うことになります)。

したがって、年俸制を導入することで、時間外勤務手当を支給しないという契約をしたとしても、その年俸額の内訳がなく、基本給一本であるような場合は、時間外勤務手当の未払い請求をされるリスクがありますから、当該労働者との労働契約においては、基本給部分と時間外勤務手当部分とが明確に区分できるようにしておくことが、極めて必要です。

ところで、先の事例のように、年俸額の中に賞与を含んでいるケースがあります。このような場合、当該賞与を、割増賃金の算定基礎から除外できるかどうかが問題となります。

この点、通常、賞与については、いわゆる「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当し、割増賃金の基礎額には算入しないこととされています。

しかし、行政通達では、「割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金の一つである賞与とは、支給額が予め確定されていないものをいい、支給額が確定しているものは賞与とはみなされない(昭22.9.13発基17号)」としており、賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要があることになりますので、この点についても、注意が必要です。


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