会社施設内での演説やビラ配布を処分できる?

当社は、東京郊外で金属部品の製造・加工業を営んでいます。当社の従業員規模は約300名で、東京本社の隣には、工場を併設しています。

労使関係は比較的良好ですが、工場内に約1名、A社員という協調性に欠いた行動をとる者がおり、何度か注意しても改まらなかったことから、けん責処分を発令したところ、A社員は外部のユニオンに加入してしまいました。

ユニオンからは、懲戒処分の取消し等を求めて、何度か団体交渉の申入れがなされましたが、当社はその都度、誠実に対応しております。

A社員は、これまでも組合員拡大のために、勤務時間外ではありますが、工場の内外でビラ配りをしていたことが何度かあり、先日も次のような事がありました。

当社の工場では、お昼休憩を全員一斉に取り、多くの従業員が、工場内の食堂や休憩室を利用しています。

休憩室では、囲碁や将棋に興じたり、テレビを見たり、各々休憩時間を自由に利用しているのですが、とある日の休憩時間中に、当該A社員が他の従業員に、何やら声を掛けている姿を、総務課長が目にしました。

「ねぇねぇBさん、ちょっとお願いなんだけどさーーー、署名に協力してほしいんだどなーーー。」

「えっ、一体何の署名ですか?・・・衆参両院議長宛『労働基準法の最低基準の大幅引き上げを求める嘆願書』って。これは一体何ですか?」

「現在のように変化の激しい時代において、我々労働者が安心して働ける職場を作るには、労働法の改正が絶対に欠かせないものであって、そのためには我々労働者が、云々~・・・。」

「私は、今の会社に特に不満もなく、安心して働いているのですが。・・・そうは言ってられないということなんですかね?」

「そ、そ、そういうことです。特に昨今の日本の景気からすれば、今後はますます、云々~・・・。」

「でも・・・、やっぱり私は特に・・・。あまり興味もないし・・・。って言うか、よくわからないし・・・。」

「大丈夫です。Bさんには、絶対に迷惑を掛けたりしませんから。僕に任せてください。」

「・・・そうなんですか。・・・じゃぁ、わかりました。えーーーと、ここに名前を書けばいいのね。」

B社員がA社員の説得に負けて署名をすると、立て続けにA社員は、別の社員に声を掛け始めました。

こうしたA社員の様子を見かねた総務課長は、ついにA社員に声を掛けました。

「Aさん。さっきから色んな人に声を掛けて署名を集めているようだが、一体何の署名なんだい?文書の配布とか署名をする場合は、会社の構内である以上、会社の許可が必要です。君は就業規則も見たことがないのか?その署名したものは、私が預っておくから、よこしなさい。」

「就業規則に書いてあるかどうかは知りませんが、今は昼休みだから何も会社に迷惑は掛けていません。」

総務課長は、この事態を直ちに総務部長に報告したところ、翌日A社員を呼んで、3人で面談することになりました。

「Aさん。昨日の休憩時間中に、他の従業員に声を掛けて、何やら署名活動をしていましたね。こうした行為は、当社の就業規則に反するということを知らないのですか。」

「休憩時間中ですし、会社にも誰にも迷惑を掛けているわけではありません。署名してくれた人も、みんな嫌な顔せずに協力してくれました。」

「昨日、実際に署名した従業員に私から話を聞きましたが、Aさんが先輩だから、断ることもできずに署名したって言ってましたよ。」

「Aさんも、当社の従業員なのですから、就業規則を遵守してもらわないと困ります。今後は、こうした活動は止めるように、お願いします。」

「いいえ、止めるつもりはありません。誰に何を言われようとも、今後もやります。」

「いいですか。Aさんが行っていた、嘆願書に署名を求める行為は、就業規則で禁止されている会社施設内での政治的活動です。たとえ組合活動であっても会社の許可なくしてはできません。昼休みだからといって自由にできるというのは、Aさんの勝手な主観によるものです。」

「いいえ、そんなことはありません! 昼休みの時間なので、会社に届出をする必要も無いと思います。」

「・・・もう一度言います。Aさんが、今後も態度を改めないのなら、会社としては厳正な措置を取らざるを得ません。今後は就業規則違反行為をしないと誓ってくれませんか。」

「いやです。私は悪くないんですから、断固拒否します。そんなことは絶対に誓えません。」

総務部長らは、この事情聴取を踏まえ、さらに署名活動の内容、他の従業員に与えた効果や、過去のA社員の処分歴等を検討して、けん責処分とすることを決定し、翌日A社員にけん責処分を発令しました。

その後、A社員は、けん責処分の無効を訴え裁判を起こしました。

休憩時間

こうした事案について裁判例では、会社施設内において演説やビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、社内の施設管理を妨げる恐れがあり、さらに他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、その後の作業能率を低下させ、その内容如何によっては、企業の運営に支障をきたし、企業秩序を乱す恐れがあるとして、休憩時間中のビラ配布等につき、会社の許可を必要とするのは、合理的な制約であるとしています。

本件についても同様で、A社員の行為が、会社施設内であったことはもとより、その署名の趣旨説明や説得を行っていたことから、会社の施設管理権や秩序維持権を侵害した上、他の従業員の自由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認し、加えてA社員には反省の意思がなかったことから、当該処分を有効としています。

しかしながら一方で、ビラの配布が、食事中の従業員に手渡した他、食卓上に置くという平穏な方法で行われ、そのビラを受け取るかどうか、閲読するか廃棄するかも各従業員に任され、配布時間も数分間であったというような態様の場合には、工場内の秩序を乱す恐れのない特別の事情が認められるとして、就業規則違反になるとは言えないとする判例もありますので、解雇はもちろんのこと、いきなり懲戒処分を行うのではなく、慎重な姿勢が必要です。


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