通勤手当を不正受給していたら?

先日、当社の社長が経営者仲間から、通勤手当を不正に受給していた従業員の話を聞いてきたようで、当社でも調査することになりました。

「総務部長。実は知り合いの社長の会社で、通勤手当の不正受給があったらしいんだよ。」

「あっ社長、おはようございます。通勤手当の不正受給ですか?悪い奴がいますね。」

「どうやら、電車で通勤するということで通勤経路を申請していたのに、自転車で通勤していたらしい。うちの会社でも、すぐに調べてみてくれないか?」

「わかりました。でも、自転車で通勤しているかどうかまでは、探偵でも雇わなければ難しいですよねーーー。」

「それもそうだなぁーーー。ふーーーむ、何か良い方法はないのかね、総務部長?」

「そうですねぇーーー。取りあえず、購入した定期券のコピーを提出させましょう。併せて、従業員に対して、会社に申請した通勤経路によらずに通勤している場合には、すぐに会社に届出をすること、そして、届出せずに後日に発覚した場合には、会社は厳正な処分を行うというような文書を作成して、通知してみましょう。」

「うん、そうだな。それに追加して、従業員から住民票記載事項証明書の提出も求めたらどうだ?」

「さすがは社長、それは名案ですね。そうすれば現住所も分かりますしね。」

こうして、会社は従業員全員の通勤経路の調査を開始しました。

ほとんどの従業員は、適正に通勤経路の届出をしており、不正は見受けられませんでしたが、A社員については、最近引っ越しをして、その届出を失念していたとして、総務部長にその旨を申し出てきました。

A社員も故意ではなく、十分に反省しており、その後、速やかに定期券の清算手続きを行って、小額ではあるものの、過払い金額もすぐに返還してきたこともあり、会社としては、口頭による注意に留めることにしました。しかし、B社員だけ、住民票記載事項証明書の提出がありません。

「Bさん。通勤経路の件ですが、Bさんだけ住民票記載事項証明書が提出されていないので、早く提出していただけませんか?」

「総務部長、たいへん申し訳ありません。なかなか取りに行くことができなくてすみません。」

「そうですか・・・。それじゃあ仕方ないですね。遅くても来週には提出してくださいね。」

そして翌週、再びB社員と面談を行いました。

「Bさん、先日お願いしていた住民票記載事項証明書は、持ってきてくれましたか?」

「・・・はい。・・・とりあえず持ってくることは持ってきたのですが・・・。」

こうしてB社員が書類を提出すると、総務部長はB社員が申請していた通勤経路とを比較し、

「Bさん、会社に申請している通勤経路と、住民票記載事項証明書の住所の最寄り駅が違いますね。これはどういうことですか?」

「た、た、たいへん申し訳ございません。つい、うっかり届出を忘れていまして・・・。」

「うっかりって・・・、じゃあ、Bさんは、いつ頃からここに住んでいるんですか?」

「えーーーと、あのーーー、そのーーー、んーーー、確かーーー、約2年前です。」

「に、に、2年前ですって? うっかりにも程があるでしょう!!何をしているんですか。」

「も、も、申し訳ございません! 決して故意にやったのではありません。すみません。」

「そうですかーーー。それではまずは、何故このようなことになったのか説明して下さい。」

「実は、妻との関係が上手く行っておらず、2年前から別居するようになりまして・・・。なかなか会社にも言い出せず・・・、申し訳ございません。」

「言いにくいかも知れませんが、そういう事は、早く会社に言ってくれないと困ります。大変だとは思いますが、会社も組織である以上見過ごす訳にはいきません。過払い分については、会社で計算しますので、まずは速やかに返還して下さい。Bさんの処分については社内で検討して、改めて通知します。」

さて、従業員が通勤経路の変更に関する届出を怠ったり、虚偽の申請をしたりして、本来受給すべきでない通勤手当を受給することは、会社に対する背信性が高く、程度によっては詐欺罪にも該当する行為であり、不正受給の金額や、不正受給の期間等によっては、懲戒解雇等の非常に重い処分の対象となる可能性があります。

しかし、このようなケースは、実際には、結構存在するのではないかと思います。もちろん、従業員本人が故意に不正受給をしていた場合であれば、懲戒処分を検討することになりますが、過失等によって、届出が数ヶ月間遅れてしまったような場合では、直ちに懲戒処分をすることは困難と言えます。

通勤交通費

会社としても、届出が遅れることのない様、常日頃から従業員に周知徹底し、従業員の過失等を未然に防ぐように努めるべきという側面もありますから、過失等による場合には、従業員本人から十分事情を聞いた上で、過払い金額を全額返済させ、口頭、または書面による注意程度に留めることが相当だと思います。

他方、従業員本人が、故意により通勤手当を不正に受給していた場合には、会社としても厳しい対応を検討することになります。

ただし、このようなケースであっても、直ちに懲戒解雇等の非常に重い処分を行うのではなく、会社として黙認していた事実はないか、他の従業員は同様の不正をしていないか、当該従業員の弁明の内容はどのようなものかを確認し、その上で、悪質と判断できる事案についてのみ、懲戒解雇等の非常に重い処分に踏み切るべきであると思います。

なお、過払い金額については、民法703条の不当利得の返還義務の規定により、従業員に返還を求めることができます(不当利得返還請求権の消滅時効は、原則として10年)。

返還の方法としては、本人からの直接返還以外に、賃金から控除する方法も考えられますが、その場合、労基法24条の「賃金全額払いの原則」との関係に注意する必要があります。

労基法上は、原則として、所得税や社会保険料等、法令に定めるもの以外は、賃金から控除することはできないことになっており、それ以外の項目について控除しようとする場合には、控除項目等について労使協定を締結することが必要となります。

したがって、賃金から控除しようとする場合には、労使協定を締結した上で、別途本人との合意に基づいて賃金から控除することが必要となります(合意相殺)。

なお、過払い金額が多額にわたらない場合であれば、過払い後の接着した時期(2~3ヶ月以内)において、本人に予告の上、過払分につき調整的に相殺を行うことも可能と考えられています(調整的相殺)。


服務規律のトラブル

サブコンテンツ

このページの先頭へ