退職時に社員会の会費を返還すべき?
- 社員旅行に行かずに退職する社員には、社員会の会費を返還しなければならないでしょうか?
- 会費の性質によります。社員の福利厚生のためにも支出しているような会費ならば、社員旅行に参加しなかったとしても他の福利厚生で利益を受けているので、特段の定めが無い限り、返還請求には応じる必要はないと考えます。
- 会費の性質による
- 事例詳細
会費の性質による
- 社員旅行のみを目的とした会費なら、社員旅行に行かなかった社員には全く利益がないので、返還請求に応じる必要がある
- 社員の福利厚生のためにも支出しているような会費なら、社員旅行に参加しなかったとしても他の福利厚生で利益を受けているので、特段の定めが無い限り、返還請求には応じる必要はない
事例詳細
当社は、事務用品の販売を主とした、従業員数30人程度の中小企業です。当社では、例年1月の中旬ころに社員旅行を実施しています。
昨年は新型コロナウイルスの感染拡大前でしたので何とか実施できましたが、それ以降は、新型コロナウイルスの感染が拡大しましたし、一時、GoToキャンペーンも行われてはいたものの、再度感染拡大のあおりを受けて中止になって以降は、社会全体の風潮もあり、残念ながら、今年の社員旅行は中止することになりました。
今年は社員旅行中止なんだって。
そのようですね。僕は3月で退職するので、楽しみにしていたんですけど。
そうだよね~。うちの社員旅行って、わりと豪勢だからね。
ですね。あと、今年行けない分、来年は予算を倍にしようって言ってましたからね。
それは楽しみだな。そういえば、毎月5,000円給与天引きされている社員会の会費って、Bさんの場合どうなるんだろうね。
そう言われればそうですねぇ。ひょっとして返還してくれるんですかね。
後日、Bさんは総務部長に確認してみました。
総務部長、私は3月で退職するのですが、毎月天引きされている社員会の会費って、返還してくれるんですか?
社員会の会費の返還? どうだろう。これまでそのような申し入れは一度もされたことがなかったからなぁ。どうしてまた?
今年は社員旅行が中止になったじゃないですか。毎月の社員会の会費って、社員旅行の原資という名目ですから、在職者は来年の原資にまわせばいいと思いますが、私は3月で退職してしまいますので…。
そういうことですか。しかし、社員会の会費は、確かに主に社員旅行の原資なのは間違いないですが、それ以外にも、親睦会や慶弔見舞金といった福利厚生にも支出されていると思いますので、一度確認してみます。
会社は、Bさんの求めに応じる必要があるのでしょうか。
返還請求を認めなかった裁判例
これに関連した裁判例で、親睦会費名目で賃金の一部(毎月500円)を毎月控除し徴収していたところ、社員が、親睦会を開催したことがないのに賃金の一部を不当に控除されたとして、不当利得返還請求をしたという事案があります。(舞台美術乙山組ほか事件 東京地判 平21.11.13)
裁判所は、会社と従業員との間で締結した労働契約において、賃金から「親睦会費」名目で月額500円を控除することを約していること、従業員が退職した場合において親睦会費名目で徴収された金員等を当該従業員に返還するなどの特段の定めは存在しないこと、会社は、従業員が退職した際や慶弔時にはギフト券や香典等を、それぞれ従業員に贈呈したり、従業員の懇親会費用を負担したりしていたという事実から、会社が親睦会費分の利得を、法律上の原因なく保有しているという従業員の主張は理由がないとして、従業員側の請求を認めませんでした。
何のために会費を徴収しているかを確認しよう
では、今回の事案はどうでしょうか。
今回も、徴収されている社員会の会費の性質は、社員旅行の原資がメインではありますが、それ以外にも福利厚生として支出しているようです。
社員会の会費が、社員旅行のみを目的としているのであれば、単に旅行費用を預かっていただけで、当該会費は社員に帰属しているといえること、また社員旅行に行かなかった社員には、全く利益がなく、社員会が一方的に利益を得ていることになるので、返還請求には応じる必要があると考えられます。
一方、今回の事案のように、社員会の会費を、社員旅行だけでなく、懇親会や社員の出産、結婚等の慶弔見舞金として支出したりする等、社員の福利厚生のためにも支出しているような場合は、単に旅行費用を預かっているだけとはいえず、社員旅行に参加しなかったとしても他の福利厚生で利益を受けているので、社員会が一方的に利益を得ていることにはならず、特段の定めが無い限り、返還請求には応じる必要はないと考えられます。
なお、このように給与から社員会の会費等を天引きするには、労働契約上の根拠(従業員との同意)が必要となるので、基本的には、賃金規程、または個別の労働契約書に記載して同意を得る必要がありますが、それに加えて、労働基準法第24条の賃金全額払いの原則に反しないよう、賃金控除協定の締結(労働基準監督署への届け出は不要)も必要です。
従業員の退職時に誤った対応をすると、不要なトラブルに発展する可能性があります。
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