他人に業務を行わせた社員を懲戒できる?

社員が、会社と労働契約関係にない第三者に業務を行わせた場合、当該社員に懲戒処分を科すことはできるのでしょうか?
就業規則に定められている懲戒事由に該当するかどうかに加えて、当該行為や被処分者に関する情状(背景事情)を適切に斟酌した上で判断する必要があります。
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このコンテンツの目次
  • 労働契約とは
  • 懲戒処分を検討するとき
  • 事例詳細

労働契約とは

  • 労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働(労務提供)し、使用者が、これに対して賃金を支払うことを合意する契約のことをいう
  • 労働契約においては、使用者の承諾がない限りは、契約当事者自身が労務提供を行う必要がある

懲戒処分を検討するとき

  • 就業規則に定められている懲戒事由に該当しない限りは、懲戒処分を行うことができない
  • 当該行為や被処分者に関する情状(背景事情)を適切に斟酌した上で、懲戒の程度を判断する

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事例詳細

当社は、都内で広告業を営む20名程度の中小企業です。新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言を受けて、感染症拡大防止の観点から、一部の従業員に対し、在宅勤務制度の導入を進めていました。

そして、定期の全体出社日のことです。

部長

Aさん、先日送ってくれた資料、素晴らしい出来だね。結構時間かかったでしょう? 一ヶ所だけ、今日中に修正をしてから、帰ってもらえないかな。

A社員

ありがとうございます。でも、すみません。今日中にはできないんです。

部長

えっ、どうしてだい? 一ヶ所だけだし、そんなに時間はかからなそうだけど・・・。

A社員

実は、結構仕事がたまっていて、ちょうど主人も在宅勤務だったので、お小遣い稼ぎに、全部やってもらったんです。

部長

なんだって!? 旦那さんとはいえ、勝手に、部外者にやってもらうのは、ダメに決まってるじゃないか。これは処分も含め、会社で審議することにするよ。

A社員

そんな!? 最終的には、私がチェックしましたし、出来がいいのであれば、会社にとっても結果オーライじゃないですか。

結果が出てれば過程は問題ない?

さて、Aさんとしては、結果的に会社から指示された仕事は達成しているので、その過程は問題にならないという主張ですが、このようなやり方は、どうなのでしょうか。

まず、労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働(労務提供)し、使用者が、これに対して賃金を支払うことを合意する契約のことをいい、使用者の承諾がない限りは、契約当事者である、Aさん自身が労務提供を行う、すなわち今回の場合は、Aさん自身が資料の作成を行う必要があります。

また、民法第625条2項では、「労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。」と定められていますので、Aさんの自己判断で、ご主人に仕事の一部を行わせていたということは、当該条文にも違反することになります。

つまり、労働契約を締結している以上は、契約当事者であるAさん自身が、資料を作成することが、当然に求められているということになります。

なお、今回Aさんのように、仕事が完成するのであれば、その過程は問わないという考え方は、請負契約(民法第632条)であって、お小遣いを対価に、ご主人に資料の完成を求めることは、いわゆる下請けに該当することになります。

他人に業務を行わせたことで懲戒できる?

次に、労働契約上、当然にAさん自身が資料の作成をすることが求められているとしても、仕事の一部をAさんのご主人が手伝った場合に、懲戒処分の対象となるかというと、就業規則に定められている懲戒事由に該当しない限りは、懲戒処分を行うことができないことになります。(国労札幌支部事件 最高裁三小 昭54.10.30判決)

この点、一般的に、就業規則は、会社で一定の管理下において労務提供を行うことを前提に作成されますので「許可なく自己の業務を第三者にさせてはいけない」ということは、当然であり、直接的な記載はなされていないものと思いますが、前述の通り、労働契約上、当事者であるAさん自身が業務を行う必要があることから、職務専念義務に反していることや、会社の秘密情報を漏洩した可能性が高いことから、これらと就業規則(服務規律や懲戒事由等)をひも付け、懲戒処分を行うことは可能となります。

なお、懲戒処分を行う場合、当該行為や被処分者に関する情状(背景事情)を適切に斟酌した上で判断する必要がありますが、今回はAさんに悪質性がないことを踏まえると譴責・減給程度が妥当だと考えます。


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