損害の全額を社員に弁済させることは可能?

指示命令や就業規則等に従わず、会社に損害を発生させた社員に対し、その損害の全額を請求できるでしょうか?
雇用契約上の債務不履行、ないし不法行為は認められても、会社の損害額が確定しておらず、かつ損害の全てを社員に負わせるのは不公平であることから、弁済額は一定程度縮減されるものと考えられます。
このコンテンツの目次
  • 社員が会社に損害を生じさせた場合
  • 裁判例
  • 事例詳細

社員が会社に損害を生じさせた場合

  • 指示命令に従わない、あるいは就業規則等に従わず使用者側に損害を生じせしめた場合、その損害を弁済しなければならないケースがあり得る

裁判例

  • 「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべき」(茨城石炭商事件 昭51.7.8 最一小)
  • 「貸付の実態が存在している融資案件について返済が1年程度滞ったとしても、貸付金返済期待が完全に失われたとはいえない」(株式会社T事件 平17.7.2 東京地裁)

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事例詳細

北大塚信用金庫に勤めるA社員は、法人向けの事業資金の融資などを担当し、東京の池袋・大塚界隈を毎日走り回っています。そんなA社員は、毎月、営業成績について法人営業部長から詰められます。

営業部長

君は、今月も目標未達か! ここ半年ずっと達成していないじゃないか。お客さんのニーズを捉えて提案をしているのか?

などなど、今月も、30分ほど注意されてしまいました。A社員はすっかり落ち込んでしまい、居酒屋で憂さを晴らす夜が続きました。

ところがある日、飲食業再生コンサルタントを名乗るBに出会いました。そこからA社員の業績は、ぐんぐん上がります。

営業部長

A君、最近、すごいな。飲食業向けの融資が多いのは気になるが、審査の基準も通っているわけだし、今のところ返済も順調に行われているようだ。いや~素晴らしい。

と、手のひらを返したかのように褒めまくります。

その後A君の絶頂の日々は1年ほど続きましたが、ある日暗転します。A社員が担当した複数の融資案件で、返済が滞り始めたばかりか、急に店舗が閉鎖され経営者とも連絡が取れない案件もでてきたのです。

そして法人営業部長に問い詰められたA社員は、ついに、Bコンサルタントのアドバイスを受けて審査用の書類を改ざんしたり、利益を水増しするなどの操作を加えたりして、北大塚信用金庫の基準では融資できない法人に融資させていたことを認めました。A社員はBコンサルタントに連絡を取ろうとしましたが、連絡が取れないとも述べました。

営業部長

き、君はなんてことをしたんだ! このままだと数千万円の損害がでるぞ! 弁償だ!!!

社員は全ての損害を弁済しなければならない?

さて、A社員は弁済に応じなければならないのでしょうか。

一般に、労働者は、労働契約上誠実に業務を遂行する義務を負っているため、使用者側の指示命令に従って業務を行う必要があります。

そのため、指示命令に従わない、あるいは就業規則等に従わず使用者側に損害を生じせしめた場合、その損害を弁済しなければならないケースがあり得ます。

具体的には、A社員は融資業務を行うにあたり、審査基準等、北大塚信用金庫が定める業務に関する基準、あるいは手順を守らなければならないところ、北大塚信用金庫が定める審査基準をクリアするために、Bのアドバイスを受けて書類の改ざん等を行い、北大塚信用金庫からの融資を引き出していることから、A社員の行為について、雇用契約上の債務不履行、ないし不法行為が成立する可能性は高いといえます。

弁済額は一定程度縮減されると考えられる

ただし、北大塚信用金庫は、A社員が関わった案件全てで生じた損害の弁済を、直ちに求めることはできません。

自動車事故を起こした従業員に対して、会社が損害賠償を求めた茨城石炭商事件(昭51.7.8 最一小)では、以下の通りとし、損害額の4分の1を弁済額の限度としました。

使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべき。

また、融資業務において不正行為を行った社員に対する損害額の算定について、株式会社T事件(平17.7.2 東京地裁)では、貸付の実態が存在している融資案件について返済が1年程度滞ったとしても、貸付金返済期待が完全に失われたとはいえないとし、結果として1,000日以上返済が滞ったものについて損害が生じたと認めています。

これらを踏まえてA社員について整理すると、A社員の行為について、雇用契約上の債務不履行、ないし不法行為は認められるものの、北大塚商会の損害額が確定していないものもあり、かつ損害の全てをA社員に負わせるのは不公平であることから、弁済額は一定程度縮減されるものと考えられます。

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