法定外の健康診断の受診を命令できるか?

不調に見える社員に対し、精神科の受診のような、法定外の健康診断の受診を命令することはできるのでしょうか?
日頃から従業員や部下の行動を観察して文書化し、まずは比較的抵抗感の少ない「心療内科」への受診をすすめましょう。
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このコンテンツの目次
  • 健康診断受診命令の有効性
  • 実務上の留意点
  • 事例詳細

健康診断受診命令の有効性

  • 精神疾患の場合、具体的な症状がみられない従業員に対して精神科の受診を命じることは、権利の濫用になる可能性がある

実務上の留意点

  • 日頃から従業員や部下の行動を観察して文書化し、まずは比較的抵抗感の少ない「心療内科」への受診をすすめる

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事例詳細

不動産販売会社に勤務するAさんは、営業を担当しています。35歳独身で、入社5年目になります。決して目立った業績をあげているわけではありませんが、その仕事ぶりは至って真面目でした。

ところが、最近になってAさんの様子が少しおかしいのではないかとの声が、他の従業員等から聞こえてくるようになりました。

総務部長

社長。営業のA社員なんですが、他の従業員から、最近少し様子がおかしいとの情報がありました。

社長

おー、総務部長。A社員がなんだって? 様子がおかしいって、どうおかしいんだね。彼は前から少しおかしい所はあるよ。

総務部長

営業部長がいうには、これまでほとんど遅刻したことはなかったのに、ここ1ヶ月くらい遅刻が目立つようになったようです。それで、応接に呼んで事情を聞こうとしたんですが、憂鬱そうで表情にも活気がなく、目線も合わそうとしないらしいんです。

社長

遅刻して注意されると思えば、憂鬱そうな表情もするだろうし、目も合わそうとしないというのは、特におかしいとは思わないけどな。君だってそうじゃないのかね。

総務部長

それだけではないんです。この間遅刻したときは、周囲からお酒臭いという声も上がったようです。仕事中も、何だかそわそわして落ち着きがないことが多く、そうかと思いきや、たまに居眠りしていることもあるようです。また、事務の女性社員に対して、急に怒り出したりしたこともあるようです。

社長

そうかぁ。ひょっとすると、最近増加している精神疾患ってやつかも知れんな。総務部長。すまんが、今後Aさんのことは、注意して見ておくように。

総務部長

はい、分かりました社長。営業部長とも連携しながら、Aさんを観察してみます。

その後しばらく、Aさんの様子も落ち着いたようにも見えましたが、ある日、Aさんが担当している顧客からクレームがありました。

クレームの内容は、打ち合わせ中に突然Aさんが怒り出して、相手の胸ぐらを掴みかけたというものでした。

こうした事態を重く見た社長は、総務部長に対し、ただちにAさんと面談をするように命じました。

総務部長

Aさん。最近のAさんを見ていると、以前と少し違うように感じますが何かありましたか。

A社員

・・・いいえ。・・・特に何もありません。ご心配は無用ですので放っておいてください。

総務部長

そうですか。でも、やっぱり少し様子が違うように感じます。体調が悪いんじゃないかと心配です。一度、健康診断を受けてみたらどうですか?

A社員

前回の健康診断では、特に異常はありませんでしたので、今から改めて健康診断を受ける必要はないと思います。

総務部長

前回の健康診断は異常がなかったとしても、今はどうか分かりません。精神的な部分も含めて健康診断を受診してください。

A社員

人を精神的におかしいみたいないい方しないでください! それに、精神鑑定なんて、会社に命令する権限はあるんですか!

総務部長

当社の就業規則にはその旨の規定があります。それに、Aさんの最近の言動からすれば、命令して受診させるのは当然です。今の状態のままじゃ、うちの営業としては到底使えません。冷静に考えてみてください。

こうして、面談は終了しましたが、その後もAさんが健康診断を受診することはありませんでした。

そこで総務部長は、Aさんの父親に連絡し、Aさんに健康診断を受診するように説得してもらうように依頼しました。

それを知ったAさんは、会社のやり方は異常で、受診の強要であり違法であるとして、会社を訴えることにしました。

精神疾患への対応は慎重に行う

さて、事例と同じような事案で裁判になったケースがあります。

心療内科

これは、心身の状況についての健康診断の受診を勧告されたとある医師が、受診の勧告を受けたこと、当該受診勧告を拒否したことに対する理由を回答するように求められたこと、また当該医師の父親にも電話で連絡して、受診を説得するように依頼する等したことが、受診の強要や嫌がらせにあたるとして、病院の院長らに対して損害賠償請求をしたというものです。

第一審では、受診勧告の態様や方法が尋常さを欠いていたこと、一定の場合に臨時の健康診断を命じうる規定が就業規則にあるが、当該場合には該当しない等と認定し、院長らの行為が違法と判断されました。

しかし控訴審では、白衣の背中に自分の名前を大書きして院内を歩く等の行為が見られたこと、患者の家族の前で他の医師がした治療について批判し、さらに看護師らが心肺蘇生術を実施している際に、「治る者ならするが、治る見込みのない者に対しては、何もしない。それがわしの主義や。」と繰り返し、「もうそんなことはせんでもいい。」といって、蘇生術を行っている看護師の手を払いのける等の言動や行動があったことを認定し、こうした医師として不相当な言動や行動に照らして、医師としての心身、特に心の健康状態に関し疑問を抱いたのはもっともなこととして、受診の勧告は強要や嫌がらせとはいえず、院長らの行為は違法ではないと判断されました。

しかし、身体的疾患であればともかく、精神疾患の場合については、具体的な症状がみられない従業員に対して「精神科医に診てもらいなさい」と命じることは、権利の濫用になる可能性があります。

よって、会社からの受診命令が違法と判断されないよう、会社は、日頃から従業員や部下の行動を観察し、おかしな言動等がみられたときには、明確に文書にて記録を残しておく必要があるといえます。

また、実際に受診命令をするに際しても、「精神科」を受診させるのは、本人にとっても精神的負担が大きいと考えられます。

したがって、いきなり精神科に受診させるのではなく、まずは比較的抵抗感の少ない「心療内科」への受診をすすめることが、トラブルを防止するという点で効果的だと思います。

そして、心療内科で診断を受けた際に、精神科の専門医の診断を仰いだ方がよいとのアドバイスがあれば、従業員にとっても、それを受け入れやすい状況になると考えられるでしょう。

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うつ病などの精神疾患の症状や正しい知識、診断書の見方、企業の衛生管理体制のあり方、従業員への対応法について、竹内社労士事務所の顧問医でもある関谷医師が、産業医という立場から、具体的に解説します。

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