始業前の準備体操や朝礼で是正勧告?

当社は、自動車部品・電気機器部品を中心とした金型の製造・加工業務を主とした会社です。従業員規模は約100名、本社は東京の郊外にあり、同じ敷地内に工場も併設しています。

製造業ですから、危険を伴う作業もあり、不注意等によって機械の操作を誤ったりすると大事故につながることもあります。

幸い当社では、十数年にわたり無事故を継続していますが、事故が発生する最大の原因は、「気の緩み」であると考えているため、始業時刻である午前9時には、気を引き締めて作業が開始できるように、10分前から準備体操と朝礼を行っています。

ある日、2名の社員が、準備体操と朝礼に遅刻してきたため、総務課長は、業務終了後2人を応接に呼び出しました。

「君たちは今日、準備体操と朝礼のときに居なかったようですけど、いったいどうしたんですか?」

「すいません、総務課長。今日は、ついうっかり寝坊してしまいまして・・・。」

「総務課長殿、すんませーーーん。私も寝坊でーーーす。今後は気をつけまーーーす。」

「・・・そうですか。それで今日は、君たち2人が少し酒臭かったという話もあるのですが、それについてはどうですか?」

「も、も、申し訳ありません。・・・実は、昨日遅くまで飲んでしまいまして・・・。」

「総務課長殿、すんませーーーん。私も飲み過ぎでーーーす。今後は気をつけまーーーす。」

「お酒を飲むのはいいですが、仕事に支障がでるような飲み方はしない方がいいですね。今日は事故が発生しませんでしたが、深酒をして遅刻してくるようなことがあれば、注意力が散漫になって、いつ事故が発生してもおかしくありません。気の緩みが事故につながるということを肝に銘じて、十分注意して下さい。」

Aさんは入社3年目で、Bさんは入社1年目の社員です。日頃から2人は仲が良く、仕事帰りに、たまに飲みに行っているようですが、今日のようなことがあったのは初めてでした。

総務課長から注意を受けた2人は、反省してはおりましたが、翌日が休みということもあって、Aさんは仕事帰りにBさんを飲みに誘いました。

「B君、今日は悪かったなーーー。俺が遅くまで付き合わせてしまったせいで怒られちゃって。今後は気を付けなきゃいけないな。」

「Aさんのせいじゃありませんから、気にしないで下さい。でも、うちの会社の始業時刻って、9時なんですよねーーー?」

「ああ、そうだよ。始業時刻は、ずーーーっと前から9時だけど、それがどうかしたのかい?」

「ですよね。今日は準備体操と朝礼には遅れましたけど、9時には間に合ったじゃないですか。なのに、注意されるってことは、本当の始業時刻は9時じゃないってことですかねーーー?」

「う~ん、なるほど・・・。今まで気にも掛けなかったから分からないけど、始業時刻は9時なんじゃないか?」

「準備体操の前には着替えもしなきゃいけないし、掃除当番があるときもあるし・・・、こういう時間って給料出てないですよね?」

「確かにそうだなぁーーー。あんまり気にしなかったけど、どうなんだろう。良く分かんないな。」

「明日は休みだから、俺、労働基準監督署に行って、今回のことを相談して来ようかな・・・。」

「あんまり無茶しない方がいいんじゃないか?チクったと思われて、逆に目を付けられたりするかもしれないよ。」

「大丈夫ですよ。軽く聞いてくるだけですから。それに労基署の人も、そこらへんはうまくやってくれるでしょ。」

B社員が労働基準監督署に相談に行った数日後、労働基準監督官が会社にやって来ました。

「○○監督署のものですが、労務関係のご担当者様はいらっしゃいますか?お尋ねしたいことがありまして、伺わせて頂きました。」

「労務担当者は、総務課長の私ですが・・・。今日は一体どういったことでしょうか。」

「私どもは、管轄内の事業所様に訪問して、臨検をさせて頂いております。本日は、ご面倒ですが書類をご用意頂いて、色々と労務管理状況のご確認をさせて頂きたいと思いまして。」

監督官はB社員の相談を受けて、会社に臨検にやって来たようです。そして、この臨検の結果、監督官からは始業時刻前の準備体操、朝礼の時間は「労働時間」であることに加え、着替え時間についても「労働時間」であり、「当該時間に対し、賃金を支払っていないこと」という「是正勧告書」が交付されてしまいました。

さて、事例のような製造業以外でも、所定の始業時刻より前に、朝礼や掃除を行っている会社は比較的多いと思いますが、こうした時間は、労働時間に該当するのでしょうか?

最高裁は、労基法でいう労働時間について、以下のように判示しています。

飲み会

「労基法第32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当すると解される。」(最高判 平12.3.9三菱重工業長崎造船所事件)

未払い賃金請求といえば、そのほとんどが、いわゆる「残業」に対してであって、始業時刻前の時間について請求しているケースは、それほど多くはありません。

しかし、いざ請求がなされた場合には、準備時間、更衣時間、清掃時間等が、使用者から義務付けられ、または余儀なくされているときは、当該行為に要する時間(社会通念上必要と認められる時間に限る)が、労働時間だと判断される可能性がありますので、注意が必要といえます。


労働時間・残業のトラブル

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