有給休暇の事後請求は有効か?

当社のA社員は、入社10年になる営業社員です。ベテランでもあり、営業成績も優秀なのですが、一つ問題があります。それは遅刻の回数が多いということです。

A社員には、これまで何度か注意をしてきたのですが「私は営業社員だから、お客さんや他の社員にも迷惑を掛けていない」と言って、なかなか改善しません。

それだけならまだしも、最近は、そのような考え方が若手の営業社員にも蔓延し、営業社員を中心として、遅刻が増えてきてしまいました。

一方で、当社では年次有給休暇のうち3日間分について、1時間単位で取得できる制度を導入しており、遅刻をしても、時間単位年休に振り替えることを認めていたという事情もあって、それが遅刻の増加に拍車を掛けている一つの要因となっていました。

「おーーーい、総務部長。ちょっと最近、社員の遅刻があまりにも多すぎやしないか。」

「そうですね、社長。私も気になっておりまして、何とか対応を考えなければいけないと思っていたところです。」

「そうだよなぁーーー。まったくなっとらん!だいたい、遅刻の理由っていうのはは何なんだ?」

「えーーーとですね。多いのは、電車の遅延と寝坊がほとんどなんですよねーーー。」

「電車遅延はしょうがないとしても、寝坊は遅刻の理由にならないよなぁ。まったくーーー。」

「そうですね。これらの理由は、いずれも責任感や自覚の欠如によるものだと思いますし、各自の努力で解消できるものですしね。」

「そうだな。遅刻をせずにちゃんと出勤している社員にも申し訳ないし。総務部長、早速改善に取り掛かってくれないか。」

「わかりました、社長。すぐに対策を考えてみます。今後は厳しく管理していきます。」

こうして当社では、交通機関における乗客の乗降、降雨時、着ぶくれ(冬場は厚着の人が多いため、いつもの満員電車のように人が詰め込めないことによる遅延)等により、2~3分の遅延は常時発生するので、こうした事態を念頭において、多少早めに出勤すべきであるから今後は、遅刻者に対し事情聴取を行い、やむを得ない事由が無い限り、時間単位の年休も認めない旨を通知し、1週間の周知徹底期間を経て、いよいよ実施することになりました。

しかし、実施日の翌日に早速、A社員が10分程遅刻をしてきました。

「Aさん。この前、遅刻に対する取り組みについて、会社から通知があった矢先ですが、今日の遅刻は何か理由があるのですか?」

「今日は、乗り換えの駅ですでに電車が遅れていて、前の電車もつかえていたので、電車が動かなかったんですよ。私のせいじゃありません。」

「だからね、前々から言っているように、もう少し早く家を出るようにしたらどうなんだね?」

「わかってますよ!でも、今日の電車遅延の場合は、一台や二台早く乗ってもだめですよ。」

「そんなことはないだろう。先ほど駅に問い合わせたら、事故があったわけでもなく、単に日常のラッシュによる遅延という回答があったぞ。」

「動かないものは仕方ないですよ。じゃあ、1時間の年次有給休暇を請求しますんで、それでよろしくお願いします。」

「人身事故や信号機の故障のような予測不可能な事由でない限り、事後請求は認めないと言ったでしょう。」

「いいじゃないですか。今まで認められていたんだから、今まで通り認めるべきでしょう。」

「認めません。遅刻による10分間は欠務処理とします。今後、このようなことが続けば、懲戒処分の対象になりますよ。」

このような事案について、裁判所は、次のように判断しています。

「労働基準法に定める年次有給休暇の制度は、労働者において、具体的な時季指定をすることによって、当該労働者の当該日についての労働義務を、法律上当然に免れさせるものであるが、他面、使用者に時季変更権が認められていることに照らすと、右時季指定は、使用者において事前に時季変更の要否を検討し、当該労働者にその告知をするに足りる相当の時間を置いてなされなければならないと解される。

したがって、年次有給休暇の事後請求という概念は、本来成り立たない性質のものである。

もっとも労働者が急病その他の緊急の事態のため、予め時季指定をすることができず欠務した場合、使用者において、当該労働者の求めに応じて、欠勤と扱わず、年次有給休暇と振り替える処理が実際上行われることがある。

この場合の年次有給休暇の扱いを求める申し出が年次有給休暇の事後請求と呼ばれることがあるが、右申し出に応じた処理をするか否かは、使用者の裁量に委ねられているものというべきであり、この申し出によって当然に休暇取得の法的効力を生ずるものと解すべき法的根拠はない。」

ラッシュアワー

では、遅刻するかも知れないと分かった時点で、始業時刻より前に電話等により連絡して、年次有給休暇を請求した場合はどうなるでしょうか?

本来、年次有給休暇とは、「労働日」を単位として付与されるのが原則ですが、ここでいう「労働日」とは、暦日計算によるものであって、原則として、午前0時からの24時間で「一労働日」ということになります。(昭63.3.14基発150号)

したがって、時間的に見ますと、始業時刻から年次有給休暇が始まるのではなく、暦日計算によって、その日の午前0時から始まり、そこから24時間の休息を与えることによってはじめて「一労働日」の年次有給休暇を与えたことになります。

したがって、年次有給休暇の申し出が、当日の朝であるということは、たとえ始業時刻前であっても、すでに午前0時を過ぎており、「労働日」が始まってからの事後請求でありますから、原則として、年次有給休暇の取得は認められないということになります。

ただし、先の例のように「時間」単位で取得できる場合ですと、始業時刻前に請求すれば取得できるとの主張も考えられますから、時間単位の取得を可能とすることについては、あまりお勧めできません。とは言え、実務上は事後請求を認めていることも多いことと思います。

信頼関係が構築できている従業員であれば、信頼関係の維持のためにも、事後請求を認めることは必要なことだと思いますが、遅刻や欠勤を繰り返す問題社員に対しては、原則通り、事後請求を認めないという方法も有効だろうと思います。


年次有給休暇のトラブル

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