退職前の有給休暇一括請求

当社は、従業員30人の不動産販売会社で、A社員は、入社5年目を迎える中堅社員ですが、もともとは企画業務に従事していました。

ところが、A社員が入社して3年が経過した頃、営業担当の社員が突然退職してしまい、急遽、A社員は、営業を担当することになってしまいました。

A社員は、新たに営業社員が入社すれば、また元の業務に戻れるのだろうと考えていましたが、こうした不況下ですから、会社も採用を控えるようになり、しばらく採用は行わない方針を打ち出しました。

A社員は、自分なりに1年間頑張ってきましたが、ついにA社員が営業課長に切り出しました。

「あのーーー、課長、ちょっとお話があるのですが・・・。今少しお時間よろしいですか?」

「おーーー、A君。どうしたんだ、改まって? わざわざ君から相談なんて珍しいじゃないか。」

「あのーーー、実は、わたし、来月一杯で、この会社を退職したいと思っています。」

「な、な、なにーーー?ど、ど、どうしたんだ、いったい急に。何があったんだね。」

「じつは・・・、以前からずっと考えていたことでして・・・。これ以上はちょっと・・・。」

「う~ん。そうか・・・。私は、君にはまだ会社で頑張ってもらいたいと思っている。君も色々思うところはあるだろうが、もう一回よく考えてみてくれないか。一週間後また話をしよう。」

それから一週間が経過し、A社員は課長に話をすることにしました。

「課長。先日のお話ですが、一週間時間を頂きましたので、その間色々と考えましたが、やはり退職することにしました。」

「そうかーーー。意志は固いのか。わかった。君からの申し出については、社長にも伝えておくよ。それで、いつ付けで退職するんだい?」

「それが、来月一杯で退職したいと思います。こちらに、退職届を持ってきました。」

「来月一杯か。今月ももう終わりだから、実質あと1ヶ月か。君は、担当のお客さんも比較的多いし、しっかり引継ぎはやってくれよ。」

「課長。私は、これまで有給休暇を1日も使ったことがありません。退職するのは、来月末ですが、有給休暇の残日数が30日ありますので、退職日まで有給休暇を使います。そして、退職日までだと、有給休暇が消化しきれませんので、未消化分は買い取って頂きます。」

「何ーーーっ!いくら退職すると言ったって、来月末までは、君はうちの会社の社員なんだぞ!引継ぎもせずに有給休暇を消化して、退職することなんて許される訳無いだろ!」

これまで温和な態度を貫いていた営業課長も、さすがに声を荒げました。

「課長。そうはおっしゃっても、有給休暇は労働者の権利です。これまでさんざんこき使われてきたんですから、最後くらいは労働者の権利を主張させてもらいます!」

A社員も、吹っ切れたのか、声を荒げて応酬し、結局、翌日からA社員は出社しませんでした。有給休暇を巡って、このような紛争がよく発生します。

確かに労働者には、有給休暇という権利はあるものの、病気のとき、あるいは慶弔時に利用するくらいで未だに多くの企業においては、「有給休暇が取りにくい」という雰囲気があるようで、その取得率は45%程度となっております。

そうは言っても、年次有給休暇は、労働者にとって絶対的な権利であり、会社がこれを取得させないようにすることは不可能です。

法的な会社の対応としても、その休暇を与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合に、取得時季を変更することができるだけです。

しかし、仮に事業の正常な運営を妨げる場合であっても、退職時に有給休暇を請求された場合には、退職日を超えて、取得時季を変更することができませんので、時季変更権が機能しないことになります。

有給休暇カレンダー

このように、会社としては、退職するなら、少なくとも引き継ぎくらいやって欲しいのに、一方の従業員は、有給休暇を全部消化したいというような状況においては、有給休暇の買い上げという方法を検討します。ちなみに買い上げ金額にルールはありません。(通常は日割計算した1日分だと思いますが。)

有給休暇の買上げは、通常は認められていませんが時効により消滅してしまう場合や、退職によって取得できなくなる分については、買い上げは可能です。

これにより会社としては、従業員が引継ぎ業務を実施してくれるというメリットを得ることができ、従業員としては、有給休暇を取得、あるいは買い上げしてもらえるというメリットを享受することができます。

また、その他のメリットとしては、会社側について言えば、

  1. 債権・債務なしの円満退職の合意書が取りやすい(金銭を支払うので、合意書を取り交わす口実になる)
  2. 社会保険料の会社負担がなくなる(有給休暇を取得し続けると、賃金を支払っているのと同じなので、保険料が発生する)
  3. 休暇中に何か起きても責任はない(有給休暇を取得し続けると、従業員の地位が存続し続けることになる)

が挙げられます。

そして、従業員のメリットとしては、

  1. 解決金の場合は退職所得となる(税金はほとんどかからない)
  2. 社会保険料や源泉所得税の負担がなくなる(有給休暇を取得し続けると、賃金を支払っているのと同じなので、保険料や源泉所得税が発生する)
  3. 再就職までのまとまった資金ができる
  4. 職安で雇用保険の手続きが早くできる、あるいは退職日の翌日から再就職できる

というものが挙げられます。

退職時に有給休暇を一括請求されると、感情的には腹立たしいとは思いますが、引継ぎ等を勘案すると、最終的には買い上げを提案して、合意書を取り交わし債権債務関係が無いことの確認が取れれば、会社も得るものがあるのではないかと思います。


年次有給休暇のトラブル

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