身元保証書の提出拒否で解雇できるか?

当社は、都内で不動産仲介業務を行っている、従業員規模が約20名の会社ですが、この度、久しぶりに社員を中途採用することにしました。

当社では、入社後約1週間は、業務にかかわる研修を実施する他、就業規則の読み合わせを行って、当社の労働条件や社内のルールを教育することも行っています。

「当社の就業規則に関しては、以上のとおりですので、Aさんも当社の社員として会社のルールをしっかり守り、勤務して下さい。」

「はい、わかりました。これからは、会社の就業規則を遵守して、一生懸命頑張ります。」

「では、就業規則にも規定されていましたが、当社では、社員の皆さんから、誓約書と身元保証書の提出をしてもらっています。内容を確認して、2週間以内に私宛に提出して下さい。」

その後、書類の提出期限が到来したのですが、Aさんからは書類の提出がありません。

「誓約書と身元保証書の件ですが、今日が提出期限なんだけど、持ってきてくれましたか。」

「あっ、すいません。ちょっと遅れています。すみませんが、もう少し待ってくれませんか。」

「そうですか・・・。仕方ないですね。わかりました。では、なるべく早く出して下さいね。」

しかし、その後も提出がなく、試用期間終了まで、あと1ヶ月となっていました。

「社長。例のA社員なんですが、誓約書と身元保証書が、まだ提出されていないんですよ。」

「そうか・・・。もうすぐ試用期間も終わるんだし、早く出してもらわなきゃダメじゃないか。」

「はい、すみません社長。さっそく明日にでも本人をつかまえて、もう一度督促してみます。」

「そうだね、そうしてくれ。総務課長もいろいろと忙しいだろうけど、ひとつよろしく頼むよ。」

翌日、総務課長はA社員を応接に呼び、話しをすることにしました。

「Aさん。誓約書と身元保証書の件なんだけど、いつ出してくれるんですか。」

「・・・それがですね・・・、えーーーとですね。あのーーー、ちょっとまだ準備が・・・。」

「前の会社には提出しなかったんですか? 誓約書は当社のルールを守って誠実に働くという約束をしてもらうため、身元保証書は当社の業務では金銭を扱うこともあるので、横領などの事故を防ぐため、そして社員の自覚を促すという意味も込めて提出をしてもらっているんです。 何か気になることでもあるんですか?」

「いいえ、と・と・特にそんな気になることなんていうのは無いんですけどね・・・。」

「だったら、早く出して下さい。誓約書と身元保証書の提出は、当社の採用条件になっているのは研修のときに説明しましたよね。」

「はい、わかりました。今度こそできるだけ早く、総務課長に提出できるようにします。」

「では、誓約書は、今ここでサインしてくれませんか。身元保証書は、月末までに提出をお願いします。もし、期限までに提出がなされなければ、雇用の継続は難しいかも知れません。」

A社員は、その場で誓約書は提出したものの、結局、期限までに身元保証書が提出されることはありませんでした。

「Aさん。結局、身元保証書の提出がなされませんでしたね。大変残念ですが、本日付で、退職する旨の退職届を提出して下さい。」

「解雇されるのであれば、それはやむを得ませんね。ただし、会社都合の解雇なんだから、退職届は提出できません!」

「会社都合だなんてとんでもありません!提出しないあなたが悪いんでしょ?とにかく、今日で雇用契約は終了です!」

「わかったよ、こんな会社辞めてやるよ!そのかわり後で後悔しても知らねぇからな!覚えてろよ!」

解雇予告手当

こうして、A社員は身元保証書を提出することなく、結局、会社を辞めることになりました。そして、その後しばらくたって、A社員から会社に対して、解雇予告手当と遅延損害金を求める訴状が届きました。

会社が、労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前にその予告をするか、30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとされています。(労基法20条1項)

しかし、労基法20条1項ただし書きには、「労働者の責めに帰すべき事由」に基づいて解雇する場合には、30日前の解雇予告や解雇予告手当の支払いといった、いわゆる解雇予告手続きは不要とされています(即時解雇)。

なお、「労働者の責めに帰すべき事由」とは、当該労働者が予告期間を置かずに即時解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反、または背信行為を意味するものと解するものが相当であるとされています。

裁判所は、本件について「会社が労働者を解雇したのは、身元保証書の提出が採用の条件とされていたにもかかわらず、労働者は会社からその提出を求められた日以降その提出に応ぜず、その後も(略)その提出に応じなかったことによるものである。社員に身元保証書を提出させる意味に照らせば、右のとおり身元保証書を提出しなかったことは、従業員としての適格性に重大な疑義を抱かせる重大な服務規律違反、または背信行為というべきであり、(略)社員も会社が身元保証書の提出を求めた意味を十分に理解していたものと考えられるのであって、それにもかかわらず、会社から申し渡された期限までに身元保証書を提出しなかったというのであるから、身元保証書の不提出を理由とした会社による労働者の解雇は、労基法20条1項ただし書きにいう、「労働者の責めに帰すべき事由」に基づく解雇に当たるというべきである。以上によれば、会社は労基法20条1項ただし書きにより、労働者に対し、解雇予告手当の支払い義務を負わない。」と判示しました。

一般的に、入社時に提出させる書類が提出されない場合には、これらの書類が業務遂行や諸手続きに必要不可欠であり、その内容が適切なものであると認められるのであれば、その不提出を理由とする解雇も社会通念上相当であると考えられます。

身元保証書の場合であれば、一般的に、正社員であれば、身元保証書を要求することについて、業務上の必要性は、ある程度認められると考えられます。

しかし、通常、身元保証書に関しては、「身元保証に関する法律」により、身元保証契約の有効期間が、最長5年である等、法律上の制限がかかっていますので、この法律に違反するような身元保証書の提出を要求した場合には、これを拒んだとしても、このことを理由とする解雇は、無効となる可能性が高いと考えられますので、その点は、注意が必要です。

なお、本件のようなトラブルも想定し、面接の段階から、採用後の提出書類を提示して説明を行い、提出がなされなければ採用しない旨を明らかにしておくことが、実務上は重要だと思います。


面接・採用のトラブル

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