健康診断の受診を拒否する社員は懲戒する?

当社は、情報システム開発を主たる業務とした会社です。創業5年目で、従業員規模も15名程度ですが、売上は創業以来順調に伸びてきています。

一方、当社が少人数であることもあり、従業員の労働時間は、毎月100時間もの残業が発生する程、長時間化しているのが現状です。

こうした状況は、IT業界では珍しいことではありませんが、長時間労働による過労死が問題になっている中、昨年社長の知人が経営する会社でも過労死が発生したようです。

当社は若い社員が多いということもあり、もともと定期健康診断は法令上の義務なのは知っていたのですが、これまでは実施しておりませんでした。

しかし、社長の知人の会社で過労死が発生したことを踏まえ、当社でも今年から従業員全員に定期健康診断を受診させることにしました。

ある日の朝礼での出来事です。

「今年から、皆さん全員に健康診断を受診してもらうことにしました。各自で健康診断を受診して結果を提出して下さい。なお、会社が指定する受診機関に申し込むこともできますので、希望があれば総務部長に伝えて下さい。」

「社長。絶対に受けないとダメなんですか~?費用は会社が負担してくれるんですか~?」

「はい。絶対に受けて下さい。費用は会社が負担しますので、健康診断の結果とともに、領収書を総務部長に提出して下さい。」

「健康診断に行くのは、会社が休みの日でないとダメなんですか~?平日には行ったらダメですか~?」

「仕事に支障が出るようであれば、なるべく休日に行って頂いた方がいいと思いますが、混雑しているようであれば、仕事を調整して、平日に行ってもらっても結構です。」

「健康診断に行った時間っていうのは、給与の方はどうなるんですか?もらえるんですよねーーー?」

「原則として給与は出ませんが、平日の就業時間内に受診した場合には、通常通りの給与を支払います。それでは、皆さん期限内に健康診断を受診するようにして下さい。」

こうして当社でも健康診断を実施することになり、所定の期間が経過しました。

「おーーーい、総務部長。健康診断は、もう全員受けたんだろうね。まさか、行ってない人なんていないよね。」

「そうですね。まだ2名について診断結果の報告がありませんが、1名は来週の土曜日に受診しに行くようです。・・・ただ、もう1名はBさんなんですが、まだ予約もしていないそうです。」

「彼は当社の中で一番年上で45歳だし、体型からして何かと問題がありそうだから、一番行ってもらわなきゃ困るのになーーー。何とかBさんに健康診断を受診するように説得してくれ。」

こうして、総務部長はBさんと面談することになりました。

「Bさん、他でもない例の健康診断の件なんですが、いつ頃に受診できることになりそうですか?」

「そうですねぇーーー。何かと忙しくて、いつ頃になるかは、まだ何とも分かりません。」

「・・・そうですか。でも他の皆さんは、忙しい中でも予定をやり繰りして、みんな受診しているんですよ。それでは、会社で健康診断の予約をしますから、その日に行くようにして下さい。」

「それは結構です。自分で予約しますから。それに自分の体のことは自分が一番知ってます。仮に受診しなかったとしても、私は健康ですから大丈夫です。」

「そういう問題ではありません。今月中に必ず健康診断を受診して、結果を提出して下さい。他の業務よりも最優先で行って下さい。これは業務命令です。もし、期日までに健康診断を受診しなかった場合には、業務命令違反でBさんを懲戒処分することになりますよ!」

こうして面談は終了しましたが、結局今月中にBさんが健康診断を受診することはありませんでした。

「社長。Bさんは、結局期日までに健康診断を受診してきませんでした。どうしましょうか?」

「再三注意しても未だに受診していないのであれば、やむを得ないな。Bさんを譴責処分とし、再度受診を促すようにしてくれ。」

さて、定期健康診断は、労働安全衛生法第66条1項により、会社に実施義務が課せられており、また同条5項では、労働者にその受診義務が課せられています。

また、健康診断の結果は、同法第66条の6により、会社が労働者に通知する義務が課せられています。

そして、会社が同法第66条1項に違反した場合、あるいは同法第66条の6に違反した場合は、同法第120条により、50万円以下の罰金の対象とされております。

健康診断

こうしたことを踏まえれば、健康診断の受診義務を負っているにもかかわらず、受診しない労働者に対しては、社内刑法である懲戒処分をもってしても受診させることは当然認められるべきと考えられます。

確かに、健康管理は本人の問題であるという側面もありますが、労働者を使用して企業活動を行っている会社にとっては、労働者の安全と健康を守ることは絶対論であり、健康診断の実施と結果の通知を怠っていては、万が一業務と因果関係のある病気や怪我、死亡という結果が発生したときに、何の申し開きもできません。

これに関連し、タクシー会社が法定の雇い入れ時の健康診断を実施し、会社は精密検査を要する旨の通知を受けていたにもかかわらず、採用した労働者を健康な労働者と同様にタクシー運転業務に従事させ、以降8ヶ月の間に肺結核が悪化した事案において、労働者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を認めた裁判例(京都地判昭57.10.7 京和タクシー事件)もあります。

したがって、会社としては健康診断を受診しない(あるいはしたくない)という労働者に対しては、懲戒処分の対象としてでも受診させるようにしなければならないと言えるでしょう。


健康問題のトラブル

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