行方不明社員の退職の取扱い

当社は、東京郊外に本社を構える従業員規模約50人の会社です。

そこに勤務するA社員は、中途入社で3年目の営業担当社員です。大学を卒業してから5年間、従業員規模約300人の不動産販売会社に勤務して、営業を担当していました。職務経歴書によると、前職では常にトップレベルの営業成績を挙げ、社長賞も何度か受賞したというような経歴が記載されていました。

当社としては、まさにA社員のような有能な営業担当者を求めており、業種は違えど、職務経歴書に興味を持った社長自らが面接し、即採用となりました。

入社当初、A社員は精力的に業務に取り組んでいましたが、実際には、なかなか思うような成果があがりませんでした。

会社も、A社員には、即戦力として大いに期待していましたが、すぐに成果が出ないことについては、同じ営業職とは言っても、前職とは扱う商品も異なっていたので、特にA社員を責めることはしませんでした。

A社員が入社2年目を経過した頃、当社は中途採用で、B社員を営業社員として採用しました。B社員はとても誠実な人柄で、真面目に一生懸命仕事をしてくれそうな人物でしたので、当社としては思い切って採用することに決めました。

営業職

B社員にとっては、初めての営業職ということで、入社した当初は戸惑いもありましたが、素直に上司の指導を聞き、一生懸命業務に取り組んでいました。

そんなB社員の努力は、次第に実り始め、入社半年を過ぎた頃から、当社の営業担当社員10名中、3番目の営業成績をあげるまでに成長しました。

一方、A社員は、10名中、7番目~9番目を推移し、たまに上位5名に入ることもありますが、最下位になることもありました。

こうして、B社員が実績をあげてくるのに比例して次第にA社員の勤務態度は、悪い方向へ変化していきました。

周囲との協調性が乏しくなり、特にB社員とはほとんど口を利かず、話しかけても無視したり、きつい口調で接するようになり、また仕事のやり方についても上司の指示を聞き入れず、頑なに自分のやり方に固執したり、時には上司に反抗するような態度を示すこともありました。

「おい、営業課長。最近A社員は、営業成績が冴えないどころか勤務態度もよくないようだな。」

「はい、社長。鳴り物入りで入社してきて、前職では営業成績が良かったようなんですが、今思うと、社長も気に入って、期待は大きかったんですが・・・。」

「でも、営業課長として、A社員の業績があがるように、ちゃんと指導はしているんだろ?」

「もちろんです。営業成績の良し悪しは、私の責任ですから。業績が悪ければ、私自身の評価にも繋がってきますし・・・。」

「そうだな。確かにA社員以外は、ある程度、営業成績をあげているんだし、営業課長の指導が悪いってことではないんだろうなぁ。勤務態度についても、引き続き指導を徹底してもらうしかないな。」

「はい。ただ、これまで散々注意もしてきたことを考えると、これ以上の改善は難しいのではないかと・・・。ぶっちゃけて言えば、居づらくなって、自分から辞めるって言ってくれればいいんですけどね。」

「おいおい。気持ちは分かるが、くれぐれも退職に追い込むような言動だけは慎んでくれよ。後で会社が訴えられてもたまらないからな。」

それから、約3ヶ月が過ぎようとしていました。営業課長も、たびたび注意・指導をしているのですが、相変わらずで、特にB社員と比較すると、その落差はますます大きくなってきていました。

そんなある日、A社員が営業課長に話し掛けてきました。

「最近、社内での居心地が悪いんですよねーーー。僕が居るとみんな迷惑そうなんで、会社辞めますわ。これ、退職届です。」

「なっ、なに~!!本気で言っているのか?まぁとりあえず君の気持ちはわかった。でも明後日まで社長は中国に出張だから、社長が出社したらその旨伝えておくよ。」

営業課長は、取り急ぎ、すぐに人事部長に報告しました。

「えぇ~、A社員から退職届が出てきたって?う~んそうか~。でも今日は社長とも連絡が取れないから、明後日社長が出社して来たら、早速報告しよう。」

「そうですねーーー、人事部長。でも、これでやっと肩の荷が降りました・・・。」

・・・しかし、その翌日、事件が勃発しました。

「あの~。昨日退職届を出しましたけど、一晩考えて、やっぱり退職するの止めることにしました。やっぱり撤回しますわ。」

「なに~!ど、どうしたんだ。いきなり!今さら撤回だなんで、認められるわけ無いだろ!」

さて、困ってしまいましたね。この一連の経緯の中で、本人が退職届を撤回したいと言い出した場合、その扱いはどうなるでしょうか。

退職届の意味は、原則として、合意退職の申し込みであると考えられています。

退職届

したがって、会社がその申し込みを承諾したかどうかが重要で、従業員からの退職の申し込みに対して、承諾する権限を有する者が、当該従業員に対して、承諾の意思表示をしたかどうかがポイントになります。

その承諾権限の範囲は、会社が自ら規定することができますが、そのような規定がない場合は、大企業であれば、社長、人事担当役員、あるいは人事部長クラスであると考えておくのが無難です。

中小零細企業であれば、社長であると考えておくべきでしょう。

よって、営業課長が退職届を受領していたとしても、特段、会社から承諾の権限の委任を受けていない限り、労働契約を消滅させる効果を発揮する承諾があったとは言えません。

やはり、こうした問題社員から退職届が出された場合には、速やかに社長等の承諾権限者の決済を得ることが大切です。

仮に、社長等がその場にいなくても、電話やメールで速やかに決済を得た上で、承諾された旨を本人に伝えに行き、退職の事実を確定させておくことで、退職の撤回をすることはできなくなります。


退職・解雇のトラブル

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