入社後すぐに休職を申入れてきたら?

当社は、プラスチックの成形・加工等を業とした株式会社です。今年で創業40年になる当社は、本社の他に工場があり、従業員は合計で約100人になります。

昨今の不況の影響で、ここ数年当社でも、赤字決算が続いていたため、従業員の給与を10%~20%減額することを決定し、昨年4月から実施しています。

しかし全社員のうちAさんだけは、会社の説得にも応じてくれません。会社は仕方なく、本人の同意がないまま、Aさんの給与を減額することにしました。

ちなみにAさんは、入社20年目で、3年前から営業開発部長の職に就いています。

「Aさん。給与の減額の件ですが・・・、なんとか同意書にサインして頂けませんか。」

「給与を引き下げる前に、会社は経費の削減をしたりといった努力をどの程度したんですか。具体的に説明してもらわないと、納得できないですよ。」

「会社としては、十分説明したつもりです。それにAさんは、部長なんですから、他の社員よりも会社の状況に理解を示すべき立場ではないですか。」

「役職は部長かもしれませんが、20%の減額幅というのは、大きすぎて納得いきません。そもそも部長とおっしゃいますが、肩書きだけで、実態は名ばかり管理職じゃないですか。」

「名ばかりではないですよ。Aさんには管理職としての待遇もしてますし、管理職手当も支払っているじゃないですか。」

「当社の中では管理職かも知れませんが、だからと言って労基法上の管理監督者と同じではないはずですよ。私が部長になってからの残業代を支払ってくれるのであれば、今回の減額について同意しても構いませんがね。」

「何を言っているんですか。残業代を支払わない代わりに、管理職手当を支払っているんじゃないですか。それに、Aさんが労基法上の管理監督者であるかどうかということと、今回の給与の減額については、別の問題です。」

「私にとってはどちらも重要な問題です。今回、給与の減額の話があってから、私も自分なりに管理監督者について調べてみましたが、やはり私は、労基法上の管理監督者には該当しないと思います。」

「そうですか?Aさんには部下もいますし、月例の経営会議にも出席しているじゃないですか。それに、出退勤管理についても、Aさんにはタイムカードを渡していませんよね。管理職手当だって、結構支払ってますし。」

「部下がいたこともありますが、部長に就任してから大半の期間は私が一人で部署の業務をやっています。経営会議についても、各部門の業務遂行状況等の報告や掌握のためのもので、会社の経営方針に参加しているといった程のレベルではありませんよ。タイムカードの件だって、私が通勤で片道2時間以上かかるので、始業・終業時刻を30分繰り下げてもらっているから、タイムカードによる処理が馴染まないってことなんじゃないんですか。」

「Aさんね。それは見解の相違ですよね。会社は決してそんなつもりではありませんよ。」

「分かりました。それでしたら、私が労基法上の管理監督者に該当するかどうか、裁判で判断してもらいます。」

こうしてAさんは、自らが労基法上の管理監督者に該当するかどうかについて、訴訟を起こしました。そして裁判所は、これに対し次のように判示しました。

タイムカード

「Aさんの地位・立場に照らした実際の就労事情からすると、Aさんの会社への経営参画状況は極めて限定的であること、常時部下がいて当該部下の人事権なり管理権を掌握しているわけでもなく、人事労務の決定権を有せず、(略)勤務時間も実際上は一般の従業員に近い勤務をしており、Aさんが自由に決定できるものではないことなどが認められる。

確かに、Aさんは会社の工場の営業開発部の部長という肩書きを持ち、社内で管理職としての待遇を受け、管理職手当として月11万円の支給を受けていることは認められるものの、これらをもってしては、未だ、労基法41条2号のいわゆる管理監督者に該当するとして、労働時間に関する規定の適用除外者とまでは認めることができない。」(東京地判H18.5.26)

昨今では、「マクドナルド事件(東京地判H20.1.28)」が記憶に新しいところですが、いわゆる管理監督者性を争った裁判では、会社にとってはかなり分が悪いのが現状です。

こうした状況を踏まえると、管理監督者性が認められるためには、単なる肩書きだけで無く、少なくともいくつかの要素をクリアしておくことが必要と言えます。

その要素の一つとしては、まず、時間管理を一般社員と明確に区分することが必要です。

具体的には、

  1. 管理職は欠勤・遅刻・早退について、報告・届出で良いが、一般社員は、会社の承認を必要とする
  2. 欠勤・遅刻・早退等の不就労があった場合に、一般社員は賃金控除をするが、管理職は賃金控除を行わない
  3. タイムカード等で時間把握をする場合にも、出社時には打刻するものの、退社時には打刻を要しない等の仕組みを用いて、勤務時間に関する自由裁量性を確保する

これらのことが考えられます(ただし、深夜勤務時間帯に勤務が及んだ場合には、深夜勤務時間を報告させる必要はあると考えます)。

二つ目の要素としては、管理・監督的なマネージャー的業務と、プレーヤー的な業務との比率に注意すべきです。

いわゆる管理監督者であっても、必要に応じて一般社員の業務と同じ業務を行うことは十分想定されますがその結果、プレーヤー的業務に費やす時間が大半を占めるという状況は避けておいた方が良いでしょう。

三つ目の要素としては、給与の面で、下位の職位にある者よりも多くしておくことが必要です。仮に時間外割増賃金等の支払いによって、月給ベースにおいて、一般社員の給与が、管理職のそれを上回ることがあったとしても、賞与の支給によって総収入を再度逆転させて、バランスを確保しておくことだと思います。

このように、労基法上の管理監督者として認められるには、実態としていくつかの要素をクリアする必要があります。したがって、無理に労基法上の管理監督者を主張せず、管理職手当をいわゆる残業代相当分として支払うとの労働契約を締結しておくことも検討する必要があると考えます。


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